醍醐の醍醐味

 

三宝院の唐門、国宝。秀吉ゆかりなので桐の紋が。

 

生まれて初めて京都の醍醐(だいご)を訪れた。従姉妹のSちゃんが、ご主人のWさんの定年退職で七月に京都に帰って来られて、醍醐に買った家に住み始めたのだ。おふたりは、これまで、自動車会社に勤めるWさんの転勤で、日本のあちこちに住んでおられたが、やっと関西に戻って来て、それもSちゃんの故郷、京都に落ち着かれることになった。

「一度遊びに来てね。」

と言われていたので、今回遠慮なくお邪魔したわけ。

醍醐と言うと、何と言っても太閤秀吉が催した「醍醐の花見」。史上最高、豪華絢爛、空前絶後のイベントであったという。それと世界文化遺産の醍醐寺。インターネットで調べると、数えられないくらいの国宝と重要文化財のオンパレードである。

しかし、これまで僕は不思議に醍醐を訪れる機会がなかった。醍醐は僕の住んでいた京都盆地から、東山を越えた山科盆地にある。結構遠いというイメージがあった。しかし、地下鉄東西線が開通してからは、京都の中心地から僅か二十分という距離だったのである。

「スキーの醍醐味」、「釣りの醍醐味」とか、「醍醐」という言葉はよく使われる。辞書で調べると、「醍醐」とは「牛乳から作った濃厚な、最上の甘みとされる液」とある。いわゆるコンデンスミルクかクリームね。したがって「醍醐味」とはその味なので、「エッセンス、本当のうま味、本当の良さ」ということになる。醍醐の街の本当の良さは、「醍醐の醍醐味!」

木曜日の昼、地下鉄で醍醐駅に着き、Sちゃんとご主人に迎えに来てもらう。地下鉄の駅前には広い道があり、両側には大きなスーパーや家電の量販店がある。しかし、少し行くと、山が迫り、道も昔の街道という雰囲気。おふたりの新居は坂を登った山の麓にあった。

昼食の後、三人で醍醐寺を見学した。厳密に言うと、半分だけの見学である。と言うのも、醍醐寺は山の麓にある「下醍醐」(しもだいご)と、山の頂上にある「上醍醐」(かみだいご)に別れていて、その日は「下醍醐」だけ見たからだ。ちなみに「下」から「上」までは、山道を一時間以上登らねばならない。Sちゃんも、ご主人も、散歩で境内は何度も通っているが、入場料を払って、寺の建物の中に入るのは初めてだと言った。

「モトちゃんが来るまで取っておいたん。」

とのこと。おおきに。

 しかし、「下」だけでも、広大な境内であった。一時ごろに着いて、見終わったのが四時だった。一通り見るのに三時間かかったことになる。奈良の東大寺もメチャ広いが、それに匹敵すると思う。境内は「三宝院エリア」、「伽藍エリア」、「霊宝館エリア」の三つに分かれている。三宝院の庭園は素晴らしかった。豊臣秀吉自身が基本設計をしたと伝えられる庭園だが、どの角度から見ても完璧なバランス感覚で作られていた。秀吉さんって、きっとバランス感覚の天才だったのね。写真が撮れなかったのが本当に残念。五重塔は、西暦九五一年に建てられたものが、一千年の時を隔ててまだ立っている。もちろん国宝。その時代の重さ、時代を超えた説得力には正直脱帽する。

 

一千年の時を超えて立っている五重塔。よくぞご無事で。

 

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