どうしてイギリス人はEUから離脱したいの?

 

疑問その三:「どうしてイギリス人はEUから離脱したいの?」

正解:「一番大きい理由はEU圏内よりの移民問題。」

二〇一六年の国民投票の結果は、僕にとっては予想外のものだった。英国人の中に色々と欧州連合(EU)に対する不満がくすぶっているのは知ってはいた。しかし、まさか過半数の人が離脱を希望していたとは意外。僕の同僚、友人はビジネスに関わっている人が多かったので、「残留」を希望する人が多かった。しかし中には離脱に賛成の人もいた。その理由を聞いてみると、一番多かったのが「EU圏内からの移民問題」である。

ここで、「移民」と「難民」を区別する必要がある。自分の意志で、別の国に住むためにやってくる人々が「移民」、政治的な理由で自分の国に居ることができなくなり、否応なしに他の国に移らざるを得なくなった人々が「難民」である。近頃は経済的な理由で亡命申請をする「経済難民」などもあり、両者に対して完全に一線を画すことは難しくなっている。シリア、アフガニスタン、ソマリアなどから来る人たちは「難民」であり、ポーランド、ルーマニア、ブルガリア、バルト三国など新しくEUに入った国から来る人たちは「移民」である。

EU内では、移動の自由、労働の自由が認められている。つまり、EUに参加する国の国民は、EU内で、何時でも、何処でも、ビザとか労働許可がなくても自由に働くことができる。その結果、ここ十年ほどでポーランド、ルーマニア等、東欧の国から大量の労働者が英国に流入した。英国人の多くは、彼らに職場を奪われ、教育や医療に負担がかかっていると思い込んでいる。掃除人はルーマニア人、建築作業員や配管工はポーランド人、洗車場はほぼユーゴスラビア人と職種によっては、特定の国の出身者でほぼ独占状態のものもある。娘がマクドナルドで働いているが、スタッフは過半数がルーマニア人で、職場での共通語がルーマニア語になっていると言っていた。当然、彼らは英国の医療制度、教育制度を利用しているわけである。都市部では、学校へ行ったら半数以上が外国人の子供たち、病院へ行ったら待っている患者の半数は外国語を話している、というのがごく当たり前の光景になっている。

しかし、何故、東ヨーロッパの人は英国に働きに来るのだろうか。そして、何故失業率が十パーセント近い英国で職を得ることができ、定住することができるのだろうか。そもそも、雇用者は、何故東ヨーロッパからの労働力を、英国人に優先して採用するのであろうか。答えは簡単、彼らが安い賃金でよく働くからである。

また、他国からの労働者なくして、果たして英国は経済的にも社会的にもやっていけるのだろうか。これも疑問である。いわゆる「3K」(汚い、きつい、危険)仕事は、ほぼ外国人が引き受けてくれているのである。ロンドンの地下鉄に乗ると、乗客の半分が外国語を話していることがある。そんな彼らが一斉に引き揚げたら、いったいどんな社会が残るのか想像がつかない。EU離脱交渉は難航している。僕はまだ結局EU離脱撤回というストーリーがあると考えている。

 

BrexitEU離脱を進めるテリーザ・メイ首相。彼女はかつて離脱反対派であった。

 

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