シミ島へ

 

最初の寄港地、パノルミティスで僕達は船を降りる。

 

十月十一日、今日はシミ島へ行くことになった。九時に船が出るので、今日は全員七時過ぎに起きて、八時にはホテルを出発することになっていた。それで今朝は「大リーグボール養成ギブス」をつけての散歩はなし。しかし、起きてすぐ朝食というのは良くない。全然食欲が湧かない。ちょっと気を抜くと、食べながら眠ってしまいそうになる。

八時十五分、水族館の前に車を停めて、波止場へ行く。今日シミ島まで行く船は三隻あるようだ。その中で一番安い、往復で一人二十ユーロの船に乗り込む。僕らが乗り込んだときはそれほど混んでいなかったが、その後ドイツ語を話す団体客が大量に乗り込んできて、船は満員になった。辺りに聴こえるのはドイツ語ばかり。なまじっかドイツ語を理解できるために、耳について仕方がない。

「どうしてドイツ人ばっかりなんですか。(シミ島をまた占領に行くのかな。)」

隣に座っていた、やはりドイツ人の夫婦に尋ねる。彼等はドイツの大手旅行会社「ツーイ」のオプショナルツアーに参加した面々なのだという。今朝早く、バスがあちこちのホテルからドイツ人達を掻き集めてきて、その人たちがこの船に乗っているのだ。そう言えば、先ほど、駐車場に着いた観光バスから大勢の人が降りているのが見えた。

船は九時に出発。二匹の鹿の像の間を通って港を出る。昨日までの風はすっかり治まり、海面は鏡のよう。絶好の船旅日和である。昨日までの強風の中では、かなり船は揺れたに違いない。

「私達は普段の行いが良いのね。」

と妻と義母が言っている。

濃い藍色の海を、白い波を立てながら船は進む。その白と青のコントラストが美しい。船の上から、僕達のホテルが見える。ロードス島がだんだんと遠ざかっていく。船は一時間半でシミ島の最初の寄港地パノルミティスに着いた。

小さな湾に面した小さな村。湾を見下ろす丘の上には風車の跡がある。岸には修道院とベネチア風の白い建物が建っている。それだけ。本当にそれ以外は何もない村だ。海の水は「限りなく透明に近いブルー」。小魚が泳ぎまわっている。可愛らしい場所だ。

修道院の中に入る。なかなか南国的な雰囲気で、静かだったら良い場所だろう。しかし、船から降りた人たちで混雑している。絵を描き始めるが、どうも落ち着かなくていい加減で止めた。船が着いたので、村は観光客で賑わっているが、一時間後に船が出てしまうと、殆ど人通りがなくなってしまうだろう。

船は昼前に出港し、シミ島の南海岸をぐるりと回る。殆ど木の生えていない崖が目の前を通り過ぎる。数隻のヨットとすれ違う。僕らの乗った観光船の巻き起こす波で、小さなヨットが大きく揺れている。三十分ほどで、船はひとつの湾の奥に向かって方向を変える。その湾の奥には、奇妙な景色が見えてきた。薄い黄色、クリーム色の村である。イタリアのアッシジの町を、海に浮かべたらこんな風になるのではないかと思った。

 

海を見ていると「限りなく透明に近いブルー」という言葉を思い出した。

 

<次へ> <戻る>