超現実的な場所

 

この後、ビールと小エビとイカとムール貝が出てきた。

 

船が村に近付く。妻も義母も、

「きれいな場所ね。」

と言った後、二の句が継げない。斜面にレゴでできたような、同じ大きさの家が並んでいる。それが全て、クリーム色、淡い黄色なのである。昨日出会った日本人の男性が、「こちらで一番気に入った場所」と言ったのが分かるような気がする。

クレタ島で、サマリア峡谷を歩いた後、帰りの船がある小さな村に立ち寄った。エメラルド色の湾に、真っ白い家の立ち並ぶ、ちょっと超現実的な村だった。何となくそこにも似ている。エーゲ海の島々には、時々、そんな童話の世界のような場所がある。

船を降りて、船着場になっている海岸沿いに歩く。教会の立つ小さな岬を回った向こう側のタヴェルナで昼食を取ることにする。僕らのテーブルの横は海、小さな波がチャプチャプと打ち寄せ、透明な水の中で魚が泳いでいるのが見える。

僕等はそこで、「イカ」と「海老」と「ムール貝」と、もちろんビールを注文した。最初に冷たい「ミュトススビール」が出てきて、その次にオリーブ油で揚げられた真っ赤な小海老が出てきた。それにレモンをたっぷり絞ってかける。香ばしくて美味い。

「これ無茶苦茶ビールに合うで。」

と妻と言い合う。その後出てきたイカの唐揚げは柔らかく、ムール貝は白ワインとニンニクとハーブの香りが絶妙だった。僕達は食事には満足した。

残ったパンを海に投げると、魚が寄ってきて取り合いをしている。池の鯉に餌をやっている気分だが、海でこんなことをやるのは初めて。タヴェルナの横には、アテネの隣のピレウスの港から来た白いフェリーが泊まっている。出発が近いらしく、人々が慌しく乗り込んでいる。

昼食の後、湾に沿ってブラブラ歩く。島は外から見ると緑が見えないが、湾に面した斜面には、結構沢山の松の木が茂っている。見上げると、切り立った丘の上に教会が建っている。あそこまで行けば見晴らしが良さそうである。

「せっかくだからあそこまで行きますか。」

高いところが好きなマユミと僕は、義母を残して階段を登りだした。午後、気温が高くなってきているし、満腹だし、アルコールも入っているので、上り坂がきつい。でも上からの眺めはよかった。この村、

「建物の色は薄い黄色にしなさい。」

と村長さんか誰かが命令したのだろうか。非常に統一の取れた村だ。

降りて、おそらく朝だけやっている小さな魚市場の中の日陰のベンチで休む。魚市場と言っても、五メートル四方しかない。魚を並べる小さな石の台と、魚を測る天秤があるだけだ。観光船が三隻着いているので、村は結構賑わっているが、船が出港した後は、ここも急に静かになるのだろう。

 

ちょっと超現実的な場所。

 

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