リンドスへ

 

リンドスの村。何となく、フランスのモン・サン・ミッシェルを思い出してしまう。

 

八時半にホテルに戻り朝食を取る。今日は天気が良いが風が強い。プールの脇の棕櫚の木の葉が、強風に大きくなびいている。テラスではなく食堂の中で食事をすることにする。

「今日は何処へ行くか決めた?」

と朝食を取りながら妻に聞く。彼女が観光の予定を立てる係なのだ。

「リンドス。」

リンドスは、島の東海岸にある、風光明媚な村。ロードス島観光の必須アイテムであると言う。

「リンドスどすか。」

どうしても返事が京都弁になってしまう。

十時に車でホテルを出て、リンドスに向かう。他の島では、道路標識がギリシア文字とアルファベットの併記だったのだが、ロードスはギリシア文字だけの標識と、アルファベットだけの標識が別に立っている。そして、ギリシア文字だけの標識が圧倒的に多い。僕は両方読めるので、別に困らない。「Λιγδος」(リンドス)と書いた標識を見て、スイスイと曲がり角を抜けて行く。ギリシア文字の読めない妻はそれを見て、

「えっ、この道で合ってるの?」

と心配している。心配しなさんな。

「ロードス島攻防記」に当時の島の地図が載っている。そこには二つの町しか記されていない。ロードスシティーとこれから行くリンドスである。つまり、リンドスはそれほど古くからあった町なのだ。今は小さな村に過ぎないが。

一時間半ほどで、リンドスの町外れの駐車場に着き、車を停める。観光バスが数台と車が五十台以上停まっていた。ロードスシティーからは船も出ている。結構沢山の人が訪れているのだ。そこから見える半島の中腹に家々があり、丘の上には神殿が見えた。

駐車場から坂を下りてリンドスの村に入って行く。間もなく、大きな木を囲んだスクエアがあった。車が入れるのはそこまで。そこから先は細い石畳の道が続く。両側に石造りの土産物屋が並ぶ、細い道を抜け「アクロポリス」と書かれた標識を追って行く。

「アクロポリス」とは古代ギリシアの町(ポリス)のシンボルとなった小高い丘のこと。普通名詞である。アテネのアクロポリスが有名だが、他の町にもある。大抵は頂上に神殿が築かれている。

だんだんと登って行くが、高度が増すにつれて、風が強くなってくる。両側手すりのない石段などがあり、何度か義母に手を貸す。丘の頂上の平らな場所に出ると、風で吹き飛ばされそうだ。そこは古代の神殿の跡で、階段と数本の石柱が残っている。

天気は良く、見下ろす海の色が素晴らしい。マユミと僕が何度もエーゲ海の島を訪れるのは、まさにこの海の色を見たいからであり、今回義母を連れてきたのも、一度この色を見せてあげたかったからである。そして、その色は写真では残せない。

 

リンドスのアクロポリス。海の色は写真に残せないと書きながら何枚も写真を撮った。

 

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