大リーグボール養成ギブス

 

白い石と黒い石を交互に敷き詰めた、模様のある石畳が一般的。

 

ホテルに戻り、プールで泳ぐ。ホテルの建物は、プールを取り囲むように立っている。プールサイドは芝生になっており、その上には沢山の寝椅子、サンベッドが並んでいる。今日は曇っていて風も強いので、そのサンベッドに寝転がっている人は十人もいない。天気の良い日ならば、このベッドは満員になるのだろう。

海を見ると、白い波頭が立っている。しかし、曇っているので歩き易かった。カンカン照りの中を歩くのは疲れるものだ。プールの水は冷たく二十度以下だと思う。身体はシャキッとするが、常に泳いでいないと身体が冷え切ってしまう。

プールから上がって、部屋で暖かいシャワーを浴びた後、夕食時間まで本を読んで過ごす。六時半に下のバーへ下り、ビールを飲んだ後、七時から夕食。メニューは毎日異なるようだ。そして、食べ放題だとついつい食べ過ぎてしまう。夕食後テラスで他の宿泊客と話す。皆基本的に暇なので、結構話が弾む。

九時を過ぎて、プールの横にあるバーでカラオケ大会のようなことをやっている。それがうるさくて眠れないので、またバーに下りる。そこでひとりのアジア人の女性に話しかけられた。彼女はフィリピン人で、ベルギー人の旦那とここへ来ているとのこと。僕はスミレを送って行ったときダーラムで買った「ダーラム大学」のマークの入ったトレーナーを着ていた。彼女はそれを見付けて話しかけてきたのだ。ダーラム大学で勉強したことがあるとのこと。昨日はトルコ人と話したが、今日はフィリピン人。ここではアジア人が少ないので、彼女も「仲間意識」から話しかけてきたのだと思う。

その夜は、音楽が静かになった十二時に眠る。

翌十月八日、六時半に目が覚める。七時過ぎに散歩に出ようとすると、マユミも義母も一緒に来ると言う。三人で海岸に出て、僕だけが海岸沿いの道路に沿って歩き出す。今日もウェートを付けている。僕はこれを「大リーグボール養成ギブス」と名付けることにした。

「大リーグボール養成ギブス」は、僕の子供の頃大人気だった野球漫画「巨人の星」で、父親の星一徹が、息子の星飛雄馬に無理矢理付ける、エキスパンダーみたいなバネがいっぱいついた筋肉補強器具なのである。飛雄馬はそれを付けたまま日常生活を送る。重りを付けて歩いていると、そのときの星飛雄馬になったような気がする。

一時間ほど歩いていると、同じ方角に歩いているギリシア人の親爺と並ぶ。

「チャイニーズかい。」

と親爺が英語で聞いてくる。

「アポ・ティ・ヤニア。(日本から)」

とギリシア語で答える。

「オー・ヤポア。」

僕の発音を訂正してくれた。僕は、「ヤポニア」は「ニ」にアクセントがあることを知った。

 

夕食までのひと時、テラスでビールを飲んで過ごすのが日課になった。