市営プールの打たせ湯

 

働き者の弟と怠け者の兄。知らない人は99%彼を兄だと思う。

 

寿司屋から戻り、居間で義父母と寛いでいると、甥のカッチから電話があった。これから仕事帰りに僕に会いに来てくれるという。彼は僕達が今日行った「ミュージアム」の近くで働いている。仕事帰りで、お腹を空かせているであろう孫のために、義母が慌てて簡単な食事を作っている。

九時頃にカッチが現れ、彼と話す。二十歳の彼だが、何歳までに結婚して、何歳で子供を作って、と彼なりに人生設計がもうできている。はっきりとした「目標」を持った青年と話すのは気持ちが良いもの。僕が彼の歳だった頃、目標は「海外で働くこと」だった。一応、その頃の目標を今は達成しているわけだ。幸運だったと言わねばなるまい。

「伯父さんの今の目標はね・・・」

とカッチに言う。

「カッチの家、高野家でタケノコ料理のお手伝いをすること。」

正直、あの和気藹々とした雰囲気に入ってみたい。カッチは冗談だと思ったが僕は本気だ。 

 翌日、朝四十分ほど散歩をする。ロンドンにいるのでは、と思うほど寒い朝。隣を小学生が歩いている。黄色い帽子をかぶりリュックサックを担ぎ、皆短いスカートか半ズボン。

散歩の前に靴下を履こうとするが、片一方どうしても見つからない。布団や敷布の中に紛れ込んでいるのではと思い、探すが見つからない。昨日金沢の妻の実家に着いてから、僕は居間と、寝室と、トイレにしかいない。風呂にも入っていない。そして靴下はずっと履いていた。それが片方だけ消えてしまっている。これは最大のミステリー。義父母も捜してくれたがどうしても見つからない。仕方なく、義父に靴下を一足もらう。

義母の作ってくれた朝食を食べる。モズク、温泉カレイ、イカソウメン、何品あるのやら。夕食のような豪華朝食だ。

「午前中はピアノを練習します。」

と義父母に宣言し、二時間ピアノに向かう。

 京都に帰るために金沢駅に向かう前、市営プールで千五百メートル泳ぐ。ここのシャワー、紐を引くと上から大量のお湯がドバーッと来る。僕は山代温泉の「打たせ湯」を思い出した。「ひょうきん族」の懺悔の時間も。

十三時五十六分の「サンダーバード」で金沢を発って京都に戻る。この列車、和倉温泉からの車両と富山からの車両を連結するので結構長く駅に停まっている。発車時間が近づいてきたのに、車を駐車場に停めに行った義父がなかなか現れない。

「あの人、いつもこうなんだから。」

と義母はヤキモキしている。乗車口から中に入り席に着く。発車のベルが鳴り、動き出す寸前に義父の姿が見えた。義父母が互いに何かを言っているが、窓越しなので分からない。「サンダーバード」は動き出す。僕は義父母に手を振り続けた。

 これまで、生母と義母は余り話す機会がなかった。今回、一緒に温泉へ行き、互いに話し、理解する機会ができたのは良かったと思う。

金沢駅で「サンダーバード」の後ろ半分の到着を待つ車掌さん。

 

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