死刑執行前夜の最後の食事

 

加賀平野の田園地帯に突然現れるこの建物には驚かされる。誰の趣味なんでしょうね。

 

十時半に父の迎えで、ホテルを出る。このまま生母と叔母を京都に帰すのも早すぎる。生母が近くにある「マツイ・ベースボール・ミュージアム」を見たいというので行ってみることにした。「ミュージアム」は松井秀樹選手の故郷、小松市の近く、能美市根上(ねあがり)にある。僕は、まだ松井選手の実家の横で、細々と展示をやっておられる頃に行ったことがある。最近大きな建物に変わったとか。

いや〜、何ともはや、田舎のど真ん中に忽然と現れたその建物は、アメリカ南部、コロニアル風。父の好きな「風と共に去りぬ」に出てきそうな建物。この土地に、「これ以上の場違いはない」と断言できるものだった。

個人的に、僕は松井選手のファンでも何でもなく、どちらかとイチロー選手の方に好感を覚えるのであるが、「ミュージアム」の中に展示されている、彼がこれまでに手にした賞の多さを見て、正直驚き、尊敬の念を持った。ご存知のように、松井選手は昨年のワールドシリーズのMVP、今年からアナハイムのエンゼルスでプレーすることになっている。

 「ミュージアム」を出た後、生母とチズコ叔母を小松駅まで送る。金沢の妻の実家にもう一泊する僕は、義父母と一緒に金沢に向かう。天気が回復し、車の窓からは雪を頂いた山が連なっているのが見える。山の見える景色にはいつもホッとさせられる。

昼過ぎに金沢の妻の実家に到着。久しぶりにピアノの練習をと考えていたのだが、最初は義父と話し(そう言えば義父は昨日から可哀想に仲間外れだったのだったもんね)、そのうち妹が現れ彼女と話し、五時ごろに仕事を終えた義弟が立ち寄り彼と話す。とても、ピアノの練習どころではない。義弟のカツミは二〇一二年のオリンピックの折には是非ロンドンに来たいと言うが、勤めと農作業の両方をこなす忙しい人なので、どうなりますか。

 夕食を義父母と外へ食べにいくことになった。義父に、

「焼肉か寿司かどっちが良い?」

と聴かれたので、間髪入れず「寿司」と答える。石川県に来て魚を食わない手はないよな。

三人で回転寿司へ行く。回転寿司といっても侮ってはいけない。富山の氷見漁港に上がった魚をそのまま食べさせる店で、はっきり言って、京都の「普通」の寿司よりは格段にネタが新鮮で美味い。ヒラメ、タイ、アジ、などを造りにしてもらって食べ、熱燗をチビチビやる。残念ながら、義父は運転があるので飲めない。すみません、僕ばっかり飲んで。

ロサンゼルスのユーコを羨ましがらせるためにホタルイカも注文、記念写真を撮る。最近知ったことなのだが、ユーコはホタルイカが大好き。

「もし自分が死刑なる前夜、最後に何を食べたいかと聞かれたら、絶対『ホタルイカの酢味噌和え』と答えるわ。」

とユーコ。彼女の望みは「身体が光るほどホタルイカを食べる」こと。しかし、残念ながら、ロサンゼルスでは滅多に食べる機会はないらしい。僕なら、死刑の前夜は絶対「ウニ」。その日も、イクラでカウントを整えた後、最後の決め球は「もちろん」ウニだった。

 

ホタルイカ。もちろん羨ましがらせるために、この写真をすぐユーコに送った。

 

<次へ> <戻る>