革命のエチュードと女性に会う口実

 

演者は皆ラフな格好。蝶ネクタイに半ズボン、白タイツで出ると言ったら信じた人がいた。

 

 三月二十七日、時差ボケは最悪。眠れないものだから、夜中に睡眠薬を飲む。そのせいか、起きても気分が悪い。生母の家に泊まり、七時に母に起こされ、朝食を食べる。その後、何となくだるくなり、また横になり十時まで眠る。起き出して旅行記を書き始めるが、また眠くなって正午から午後一時まで眠る。外出から帰った母が昼食を食べている。食欲がなく昼食はパス。居間の畳の上に寝転がって母の食べるのを見ていた。

 その日は三時半からサクラの家でピアノの練習をさせてもらうことになっていた。現在のところ、僕はそれほど「頑張って」「切実に」ピアノの練習をしなければならない状態ではない。と言うのも、先週の日曜日、二月二十二日に既にピアノのミニ・コンサート、発表会が終えていたのだ。従って、特に今集中して練習しなければならない曲もない。

「ピアノの練習」と言うのはサクラに会いに行く口実だけかも知れない。女性に会いに行くのにいきなり、

「あの〜、お会いしたいのですが。」

と言うのも恥ずかしい。相手が男性の場合、例えばG君に会うときなんかは、単刀直入、

「明日暇?会えへん?」

ということになる。しかし、これが女性だと、間接的に、

「あの〜、ピアノの練習をさせていただきたいのですが。」

と言ってしまう。「サクラさんに会うのと、ピアノの練習、どっちが大事なの」と聞かれると、う〜ん、答えに困る。 

二十二日のミニ・コンサートは、僕のピアノの師匠、ヴァレンティン・シーデマイヤー氏の家であった。四人の大人の弟子たちが弾いた。ヴァレンティンには他にもティーンエージャーの生徒がいるのだが、発表会は彼らとは別にしてくれている。

僕はハイドンのソナタとドビュッシーの「夢想」の二曲を弾いた。ハイドンのソナタは第四楽章まであるので、全部弾くとそれだけで十二分を超える長丁場。しかし、そこは「本番に強いモト」の本領を発揮し、まあまあ二曲を無難に弾き通すことができた。

昨年から加わったメチャ上手い日本人女性ミナミは、いきなりショパンの「革命のエチュード」。本来なら、一番上手い彼女が「大トリ」になるはずなのだが。

「一番最後は緊張するのでどうしても嫌。」

と彼女は言う。確かに。他人の演奏を聴いているだけで、緊張してしまう。正直、最初に弾いて、後はリラックスをして聴きたいという気持ちは良く分かる。先生に頼まれ、一度は僕が僭越ながら「トリ」を務めさせていただくことになった。しかし、当日プログラムを見ると、フレッドが最後だった。「最年長」ということで彼が代わってくれたのだろうか。観衆は演者の他にはヴァレンティンとマユミ、そしてサイモン。

 そうそう、会社の同僚のサイモンがわざわざ発表会を聴きにきてくれたのだ。反省会、茶話会でケーキを食べながら、サイモンは先生や他の弟子たちと結構楽しそうに話していた。彼はドラムを弾くというか、叩くのだ。次回は僕が彼のバンドの演奏を聴きにいかねばなるまい。

 

茶話会、左から税理士のチヴァ、僕の同僚のサイモン、不動産管理会社重役のフレッド、僕、プロを目指すミナミ。

 

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