季節は冬へ

 

 

 牧場で働き始めて、最初の二、三週間は腰が痛かった。

「ちょっとマッサージ頼むわ。」

と言って、妻にさすってもらう。それほど重い物を持ち上げるわけではない。干草もウンコも軽い物だ。しかし、中腰の姿勢での作業は、慣れるまでに時間がかかった。それと、運搬手段は手押しの一輪車なのである。(トラクターがあると便利なのだが、そんな金もないし。誰か寄付してくれないかな。)秋が深まり、雨が続き、下がぬかるんで来ると、一輪車を押すにも力が要る。メインエリアには藁が敷いてある。フワフワとした藁の上を歩くのは、ちょうど雪の上を歩いているような感覚。雪国の方はご存知だと思うが、雪の上を歩くのは、倍疲れるし、何よりも腰にくるのだ。

牧場は長方形の土地で、約三百メートルX二百メートル、つまり約六ヘクタールほどある。厩舎やシェルター(屋根だけのついた雨を避けるための場所)は長方形の土地の一画にある。真ん中に木があるので、向こう側は見渡せない。

「正確に、全部で何頭馬がいるのかな。」

何度も考えたが、木立の向こう側にいる馬は見えないので、未だによく分かっていない。

自分が馬に慣れるにつれ、馬も自分に慣れてくる。馬にも性格、パーソナリティーがあることがわかる。(パーソンではないのだが。)人懐っこい馬も、愛想のない馬もいる。それぞれに可愛い奴らである。何でも引っ張りたがる馬もいて、僕が後ろ向きで水遣りをしていると、袖や、ファスナーの引手なんかを引っ張ってくる。僕はその雌馬に「引っ張り君」というあだ名を付けた。

ポニーの身体をブラッシングしてやる。これが一番楽しい作業。ポニーたちも気持ち良さそう。

「次は僕の番だよ。」

と待ち行列ができる。時々、近くに住むキジが時々遊びに来て、藁の上を歩いている。カラフルで、きれいな鳥だ。

 十一月の最初からボランティアを始めたが、季節は冬に向かう。寒くなってくる。身体を動かしていると暖かくなるので、寒さはそれほど気にならない。一番困るのは雨。濡れると体温が奪われる。一度、気温三度、雨の中で作業をしていたが、ゴム手袋をはめているものの、指の感覚がなくなってしまった。昔に増して、天気予報を入念にチェックするようになった。午後から雨になるから、午前中に作業をしてしまおうとか、午後から雨が上がりそうなので、作業を午後にずらそうとか。雨の後、日が差すと、馬の背中からモウモウと湯気が立ち上っている。

いよいよ寒くなって、馬にコートが着せられる。ぬかるみがひどくなり、藁を厚めに敷く。寒さに対して完全武装で、作業に向かう。クリスマスプレゼントに子供たちから、ヒートテックのシャツとタイツを貰った。これは嬉しくて、とても役に立った。

 

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