ブリュッセルの人はおせっかい?

 

北フランスの場末のバーで、知らない人たちと、言葉も分からないのに意気投合。

 

ダンケルクからブリュッセルに向かう高速道路はひたすら平坦で真っ直ぐだった。アクセルを踏まなくても一定のスピードで走れる機能、「クルーズコントローラー」をオンにしているので、足を使う必要もない。十分くらいなら、眠っていても大丈夫のような気がする。

僕は二週間、北フランスのダンケルクという町で働くことになった。一週間が終わった後、週末にブリュッセルに行くことにした。英国では、「ブリュッセル」という言葉には特別な意味がある。

「ブリュッセルの言いなりになっていていいのか。」

「英国の未来を決めるのは英国民でブリュッセルじゃない。」

「ブリュッセルの口出しを許すな。」

今年あった、英国の総選挙では、そんな声がよく聞かれた。別にブリュッセルに住む人が、おせっかいで、英国に色々ちょっかいをかけてくるわけではない。EU(欧州連合)の機関の多くがブリュッセル置かれているため、ブリュッセルはEUの首都という感じが強い。つまりこちらの人は「EU」と言う代わりに「ブリュッセル」と言うわけだ。「全英オープンテニス」と言わないで、単に「ウィンブルドン」と言うようなものかな。

数週間前から、ギリシアの財政危機問題が頂点に達していた。僕がダンケルクを訪れる前の週末、ギリシアはユーロ圏離脱、支払い不能の危機にあった。そのとき、欧州の首脳が集まり、マラソン交渉が行われたのがこのブリュッセルである。

ブリュッセルには仕事で何度か行ったが、例によって、空港と、ホテルと、仕事場しか知らない。ひとつだけ鮮明に覚えていることは、「船盛海鮮盛料理」を食べたくらいか。それ以外の記憶は、見事に拭い去られている。最後に訪れたのが、もう十五年以上も前だもの。

ダンケルクを出て、十五分ほど走ると、もうベルギーに入る。国境には見事に何もない。

「ここからベルギー」

という標識があるだけ。

「ここから滋賀県」

と何ら変わりがない。車は減速さえしないで、ベルギー領に突入していく。両側に畑と牧場が広がる、単調な風景の中、高速道路E四十号線を走る。天気は良く、太陽がまぶしい。途中ヴェルネという街に給油のために入る。ベージュ色の石造りの建物で出来た、結構可愛い町である。

一時間半ほど走って、北東からブリュッセルの街に入る。街を貫いてトンネルが掘られていて、街の中心部に入るには非常に便利が良い。トンネルの中でもカーナビが使えるのが不思議。

「どんな仕組みになっているんだろう。」

と考えるが、見当さえつかない。十二時に、予約していた「シェラトンホテル」の地下の駐車場に車を停める。

 

ブリュッセル、グランプラス広場にて。偉大な広場、大きな広場という意味である。

 

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