ふたつの言葉

 

ブダペストでもオペラ座はこんな建物だった。

 

ホテルで荷物を預けて観光に出かける。ホテルはロジェールという地下鉄の駅のちょうど前。一日乗車券を買って、地下鉄に乗ろうとする。一日乗車券は紙である。切符を改札口のリーダーに近付けても、うんともすんとも言わない。誰も聞く人はいない。一分ほど色々考え、試してみる。ひとつの改札口だけオレンジ色のポストのような箱があった。それ切符を通したら改札のゲートが開いた。とにかく、ブリュッセルの地下鉄の駅には駅員の姿が見えない。地下鉄の線も番号だけで案内してあり、行先が書いてないので、初心者には分かりにくい。良く言えば合理的、悪く言えば不親切なシステム。街を歩いていても、全てからそんな印象を受けた。

地下鉄を二駅乗って、外に出る。劇場、シアターがある。パルテノン宮殿風のファサードで、典型的なヨーロッパのオペラ座の建物。シアターの横にある観光案内のブースで、地図を貰う。出発前に、一応ブリュッセルの見所とその場所は、インターネットで調べて来ていたので、だいたいは頭に入っている。観光案内ブースの横の道を抜けると、グランプラス広場に出る。この広場がブリュッセルの顔である。

そこに至るまで、道路標識には、「グランプラス」と「グローテ・マルクト」の二つが併記されている。最初がフランス語、次がフラマン語である。ベルギーの公用語はフランス語とフラマン語。だから、基本的に標識は、この二ヶ国語で書かれているのだ。たまたまに両方で同じ場合はひとつだけだが。フラマン語は基本的にオランダ語である。しかし、発音は本家オランダよりドイツ語に近いと思う。帰り道、車の中でフラマン語のラジオをつけ、ニュースを聞いたが、ドイツ語に似ていて、だいたい聞き取れる。フランス語の放送は、相変わらずチンプンカンプン。それで、ベルギーから帰った翌週、車の中で、ずっとフラマン語のラジオを聞いていた。ダンケルクはベルギーの国境からわずか十五キロしか離れていないので、ベルギーの放送はよく入った。

さてグランプラス広場は、四方を歴史的な建物に取り囲まれた、ブリュッセル随一の観光スポットである。高い塔を持った市庁舎、王の家、その他、各職業の同業組合(ギルド)の本部であるギルドハウスが、一辺百メートルほどの広場を四方から取り囲んでいる。天気の良い土曜日の午後ということで、広場は大勢の人で賑わっている。

ラフな格好をした観光客が八割だが、残りの二割は、ジャケットを着た男性、フォーマルなワンピースを着た女性が占めている。

「ベルギーの人は礼儀正しいのだろうか。」

そう思ったが、市庁舎の入り口を潜って中庭に入ったとき、その理由が分かった。市庁舎では、結婚式が行われていた。それも一組だけではなく何組も。ヨーロッパでは、市役所でオフィシャルな結婚の登録をした後、教会で式を挙げるのが普通なのだ。市庁舎の中にはやグランドプラス広場の真ん中では、花嫁花婿を囲んで、その家族、友人たちが写真を撮っていた。フォーマルなドレスに身を包む女性ってなかなか素敵。この場所に合っていると思う。

 

市庁舎の前で、花嫁花婿と一緒に写真を撮る人々。