オーチャードの謎

 

オーチャードではもうクリスマスツリーが。

 

シンガポールを発つ日、夕方の飛行機なので、日中は時間があった。チェックアウトを済ませ、フロントに荷物を預けた僕と妻は、シンガポールのショッピング街、「オーチャード」に行ってみることにした。地下鉄では隣の駅である。

地下鉄を降りて外に出る。大きなクリスマスツリーが。まだ十一月の初めなのに。

「気の早い人たちや。」

と感心する。通りの両側には、高級ブランドの店が軒を連ねている。「グッチ」とか「プラダ」とか。

「ちょっと待てよ。プラダの店だけで何軒あるねん。」

「グッチ」とか「プラダ」の店が、あっちこっちにあるのである。詳しくは知らないが、同じ物を売っているとしたら、どうして、こんなに競合しているのだろう。スーパーの食料品じゃあるまいし、何軒が回って一番安い店で買う、そんな客層とも思えないし。謎である。

 オーチャードにおける第二の謎は、冬物衣料の店があることだ。革ジャン、毛皮のコートとか、マフラー、手袋なんかを売っている。

「なんで、こんな物がシンガポールで必要やねん。」

Tシャツと短パンで一年中過ごせる気候なのに。

「多分、ヨーロッパや日本に旅行に行く人が買うのよ。」

と妻が言う。なるほど、そんな考え方もある。別に買う物もないし、買う金もないし、角の「マリオットホテル」のロビーで、コーヒーを飲んで過ごす。

 ホテルに戻って待っていると、エンゾーを幼稚園に迎えに行った後の息子が来てくれた。彼の車で空港に向かう。飛行機の出発は七時半。まだ時間がある。僕たちは、「ジュエル」という、空港のすぐ横にあるショッピングセンターに行く。そこには人口の大きな滝があり、天井から水が五十メートルくらい下まで流れ落ちている。最上階に、子供たちが遊べる小さな公園があり、そこでエンゾーを遊ばせて、シンガポール最後の時間を過ごした。雲吞麺を食べて、飛行機に乗る前の腹ごしらえ。

 息子がターミナルの前まで送ってくれる。

「じゃ、また来月ね。」

と息子。もう十一月になっている。そして、息子たちは、十二月、クリスマスに合わせて、英国に来ることになっている。

「そうか、もう来月なんや。」

こんな、またすぐ会える形で、息子たちと別れるのは始めてだ。

「バイバイ、エンゾーくん、次に会うまでいい子でね。」

僕と妻は、ターミナルビルに入っていった。

 

「ジュエル」にある、人工の滝。

 

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