満足の科学

 

満足に関して、自分自身が寄与しているのは言うまでもない。しかし、哲学的、生物学的に満足を分析するのも、意義のあるものではないか。

 

存在特性としての満足

 

多くの嫌なことで人生が台無しになる。それまでの努力を否定されるようなアンラッキーな目に遭うことがある。しかし、それでも文句を言わずに生きていく人はいる。ひょっとして、満足している人が、不満足を感じている人と人生を交換しても、やはり満足だと感じるのではないか。長い間、健康で安定した生活が満足の基だと考えられてきたが、それに対して疑問が生じている。例えば、視覚障碍者の人の方が、経済的、社会的に恵まれていないのにも関わらず、健常者より満足を感じる割合が高い。「幸福のパラドックス」というものがある。富を手に入れたとき、一時的に幸福を感じるが、それは長続きしない。富がある以上になると人間はかえって不安を感じる。幸福は金では買えないものなのだ。結婚しても、病気が治っても、昇進しても、宝くじが当たっても、幸福になるとは限らない。それらは一過性のものにすぎない。また、離婚や破産などで失望を味わっても、幸福感は間もなく戻って来る。幸福に出会っても、不幸に出会っても、三か月で元のレベルに戻ると言われている。もちろん、種類によって、戻る期間にはばらつきはあるが。

それに対して、満足は各々がその「基準」を持っており、それを超えたときに感じるものである。そして、その基準を後で調整することが可能なのである。つまり、基準を調整することで、満足度は増やすことができる。「あなたは今の生活に満足していますか」というアンケートをする。同じ人間でも年齢によって結果が大きく変わってくる。また同じ出来事でも、個人によって、それに対する耐性、消化能力は大きく変わってくる。ローレイが、全身が麻痺し、目しか動かせない患者に満足度のテストをした。その結果、彼らが感じる満足度は、通常の人間と同じものであったという。

人生を決定するような出来事が満足度にそれほど影響を与えていない。事実、生活環境はほんの数パーセントしか満足度を左右しているに過ぎないのである。では、満足度は持って生まれた性格で決まるのであろうか。例えば、二十五年ぶりに学校の同窓会で、かつての級友に出会ったとする。そのとき、服装、体形、髪型など外形は変わっていても、性格が基本的に変わっていないことに気付くであろう。年月を経て環境が変わっても、文句を言っている人間は、やはり文句を言っている。満足度は外的な要因に左右されないのだろうか。

ディーナーは自分の学生を対象に調査をした。彼はまず、人間の性格を五つのカテゴリーに大別した。神経質であるかどうか。

@     外交的であるかどうか。

A     新しい環境を受け入れる用意があるかどうか。

B     計画性であるかどうか。

C     忍容性があるかどうか。

そして、各々の特性が強調された場合と、顕著に現れない場合の、その結果としての性格を記述した。ディーナーは、学生が、自分の性格をカテゴリーの中でどのように捕らえているかと、彼らの満足度と結び付けた。その結果、これら五つの特性が、満足度に影響を与えており、満足度が高い学生は、特製の中で同じ傾向を示していることが分かった。特に、「外交的」、「計画性」が満足を得ることに重要な性格であることが分かった。「外交的であること」は「外に目を向ける」ことであり、そこでは、外から何か「良いもの」を得ることを期待している。外交的な人間は、良い体験に対する感受性が強く、それを長く覚えている。また「計画性」は人生における諸問題を解決していくうえで、最も重要なことである。反対に感情的な脆さは満足とは相いれないものであるし、神経質な人間はストレスを感じやすい。

ディーナーは、結果として、性格が満足度に影響を与えるものの、それは五十パーセントの範囲であると結論付けた。残りの半分は人生の他の部分の影響を受けている。それは職場、家庭などの生活環境である。特に、満足度に対する傾向は職場で顕著異になる。同じ仕事をしても、楽しく働くことのできる人間と、文句ばかり言っている人間がいる。そして、その後の調査の結果、学生の時の満足度に関する傾向は、卒業後、職場での満足度をある程度予測できた。

ルーフは、人間が満足感を得るとき、どのような特性が強く働くかを調べた。高いものから言うと、「希望」、「熱中」、「愛着」、「感謝」が挙げられている。また、「除外」、「耽美」、「真偽の判断」、「創造性」、「謙虚」と言ったポジティブな特性であったも、ほとんど働かないものもあった。また、その結果が、西欧では当てはまるが、貧しいバングラデシュのような国では通用しないことも分かった。(金が満足度の最初の要因になってしまう。また、性格は常に変わる、年齢が進んでも変わるものであることも分かった。同窓会で、

「あいつ変わったな。」

と感じる級友がいるように。しかし、変わりやすい性格と変わりにくい性格があり、外向性、社交的であるかは最も変わりにくい。しかし、計画性、忍容性は変化し、年齢とともに協調される傾向にある。また、年齢とともに新しいものは次第に受け入れにくくなる。

性格を変えれば満足度も変わることは分かっていても、それでも人間の性格を変えることは難しい。それはどう変わればよいのか、そのモデルが見つからないことが大きな原因であろう。人生と対峙しなければ性格を変えることはできない、また性格が変えられる可能性を信じることが大切であろう。