三国志の魅力(その一)

 

劉備玄徳。仁義を大切にする苦労人。于和偉(ユー・ホーウェイ)演。

 

 一回四十五分のドラマを、九十五話見る。日本でいうと、NHKの大河ドラマを二年分まとめて見るようなものだ。有難いことに、このドラマ、同じ年の秋に、日本のBSで放送されていた。だから、日本語吹き替え版があった。中国のドラマは、中国語で英語字幕が多い。日本語版があるのは助かる。そして、YouTubeでそれを全編見ることが出来たのだ。僕は、七月初旬から見始めた。ほぼ毎晩、一話か二話見ていった。そして、九十五話見終わったときには、九月も半ばになっていた。

 さて、このドラマ、紹介ページによると、二〇〇八年九月から、二〇〇九年七月まで、十カ月かけて撮影され、総製作費は日本円に直すと二十五億円とのこと。登場人物は三百人、エキストラは延べ十五万人とあった。正直、膨大な規模の割に、二十五億円という製作費は、ずいぶんと安く感じる。

「やはり、中国は人件費がやはり安いのかな。」

と考えてしまう。

 ともかく、僕は、二か月の間、このドラマに「ハマって」いた。元々、波乱に富んだ時代の歴史を、面白おかしく脚色した小説があった。それをテレビ向けに更に脚色してあるのだから、これは面白くないわけがない。一度見出すと止まらない。世の中に、「三国志ファン」は多いと知っていたが、僕もそのひとりになってしまった。見終わったときには、達成感とともに、

「もう明日からこの楽しみはない。」

という喪失感があったくらい。

 見ていて何に魅せられたかと言うと・・・

第一は、当時の中国の文明の高さである。今から約二千年前。日本では弥生時代、人々は小規模な集落を形成し米を作り始めていた。ローマ帝国はあったが、今の英国やドイツは、蛮人、ゲルマン民族が狩猟生活を送っていた。そんな時代に、中国では、おそろしいまでの緻密で高度な、政治制度、社会制度、工業技術があったのだ。堅固な城塞、そして、それを攻める時に使われる、当時最先端の「テクノロジー」の数々、そんなものが二千年前に存在したとは、驚嘆に値する。

第二は、登場人物の考え方に共鳴できたこと。

「この二千年来、人々の考え方は基本的に変わってへんなあ。」

と、しみじみ思った。「義理」、「人情」、「権力欲」、「友情」、「嫉妬」、「愛情」・・・そんな現代社会で渦巻く人間の性が、当時も存在していた。そして、当時の人間も、現代の人間も、基本的に、同じところで喜び、悲しみ、憤っているのだと実感した。特に共感を覚えたのは、三国のうち「蜀」の皇帝となった劉備である。彼は、徹頭徹尾、義理と人情を大切にする人であった。その誠実さは、現代人の心をも打つ。

 

戦略、組織力、そして当時の技術の粋が投入された攻城戦。その戦略は現代に通じる。

 

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