揚先生の一言

 

ドラマで曹操を演じた陳建斌(チェン・ジェンビン)、超合理主義者、稀代の弁術家として描かれている。

 

それは、揚(ヤン)先生の一言から始まった。

「曹操の話をすれば、曹操が現れる。」(曹操曹操到。)

中国語のオンラインレッスンの最中であった。

「これは、誰かの話をすれば、その人が実際に現れるという意味です。」

と先生は説明した。「噂をすれば影がさす」ってことか。

「モトさん、『曹操』(ツァオツァオ)って、誰か知ってますか。」

「えっ、確か、『三国志』に登場する人。でも、余りよく知りません。」

と中国語で答える。

「では、モトさん、宿題です。来週までに『曹操』がどんな人が、調べておいてください。」

 ということで、授業の後、僕は、曹操について、グーグルなどを使って、リサーチを始めた。曹操は、「三国志」に登場する人物で、三つの国のひとつである「魏」の国王。策略家で現実主義者であったと書かれていた。しかし、彼について詳しく知ろうとすれば、やはり「三国志」全体を知る必要がある。僕は次に、「三国志」について短く解説しているYouTubeビデオを探し出し、それを二本見た。そこで、

1. 三国志とは、紀元一八〇年から二八〇年、今から二千年近く前の中国の話であること。

2. 歴史書である「三国正史」と、それを基にして後世に書かれた歴史小説「三国演戯」の二つがあること。

3. 多数の人物が登場し、とてつもなく長い話であること。

ということを知った。とにかく長くてやたら登場人物が多いと、YouTubeビデオの解説者も繰り返していた。

翌週のオンラインレッスンの冒頭で、僕は揚先生に、それまでに調べたことを中国語で発表する。それで終わらせてしまうことも出来た。しかし、その時点で僕は好奇心を掻き立てられていた。凝り性の僕なのである。僕はつぶやいた。

「三国志を読んでみたい。」

しかし、とてつもなく長い本だという。

「何語で読むの?日本語?英語?中国語?」

英語か中国語で読むとすると、僕の読むスピードを考えれば、死ぬまでに、読み終われない可能性がある。しかし、英国では、おいそれと日本語の本は手に入らない。

僕は、映画かテレビドラマで見ることができないか、調べ始めた。そして、行き当たったのが、二〇一〇年に中国で放送されたテレビシリーズ「三国、Three Kingdoms」であった。(中国語で「サンゴウ」。福井県の人は「みくに」と読むかもね。ボートレースのある町。)このドラマ、一話が四十五分で、何と九十五話もある。全部で七十一時間、一日中ぶっ通しで見続けたとしても、丸三日かかるという大作であった。

 

曹操の初期のライバルだった袁紹。許文広(シュー・ウェングァン)が演じる。曹操に対して圧倒的優勢を持ちながら、優柔不断さで自ら墓穴を掘る。

 

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