ストーンヘンジに行こう

 

待ち合わせをしたキューガーデン駅の構内にあるパブ「レイルウェー」。店からプラットホームと電車が見える。

 

 残業時間が貯まり、八月の最終週にもう一日休みが取れることになった。僕の会社、不況に遭遇してから、残業手当が支払われなくなり、現在残業は全て代休で消化せよと言われている。

「そうでっか、そんなら遠慮なく代休を取らせてもらいまっさ。」

そう言いながら、僕はふとストーンヘンジへ行くことを思いついた。妻はその週留守にしている。ひとりで運転するのも退屈なので、誰かを誘おう。誰が良いかな。僕は「廃墟好き」のノリコを第一候補に選んでメールを打った。ノリコは木曜日ならオーケーとのこと。それで、木曜日に休みを取り、彼女とストーンヘンジを訪れることになった。

 大阪出身のノリコは、ヘンリー八世も住んだハンプトン・コート宮殿で働く傍ら、英国の古城巡り、それも崩れかけた廃墟を訪れることを趣味にしている。僕たち夫婦は最近よくギリシアに旅行するが、そこで神殿や街の廃墟をよく見る。その度に、

「ノリコさんが見たら喜ぶやろね。」

「彼女に見せてあげたいね。」

と話しているくらいの「廃墟好き」。

 水曜日の午後から天気が崩れ、水曜日の午後から夜半にかけて強い雨になった。ストーンヘンジはもちろん屋外であるので、少し心配になる。ストーンヘンジは「ユネスコ世界遺産」である。まあ、ストーンヘンジが「世界遺産」でなかったら、他に何が一体「世界遺産」になるのということになるが。

 最近「ディスカバー・イングランド」と自分で勝手に名付けて、暇を見つけては、ロンドン周辺の街々を訪れている。それも出来るだけ車ではなく電車で。何故今になって?英国に居る時間が少なくなってきたわけでもないのに。要するに最近暇なのである。しかし、色々な街を訪れても、何か特別なことをするわけどもない。そこのパブでビールを飲んで、写真を撮って。そして、その写真を、インターネットの「誰もが見られるが、結局は誰も見ない」アルバムに載せているだけなのだけど。

 木曜日、朝起きると霧雨。今日から二週間の予定で、フランスとイタリアを鉄道で回るというスミレを、朝六時過ぎに近くの駅まで送って行く。スミレは、セント・パンクラス駅まで行き、そこからユーロスターでフランスへ向かい、今日はパリに泊るという。パリでは、今年東南アジア旅行中に知り合ったフランス人が、彼女を案内してくれるという。

「地元の人が案内してくれるって、心強いし、便利だよね。」

とスミレと僕が車の中で同時に言った。

 今日はストーンヘンジでピクニックでもしようかと思ったが、悪天候により断念。握り飯を作って、それを半分朝食に、残りを「非常食料」としてリュックに詰める。足元が悪かったときのために、いつも車のトランクに積んでいるものの他に、もう一足「ウェリントン・ブーツ」(ゴム長靴を英国ではこう呼ぶ、通称「ウェリー」)を積んで、八時十五分に家を出た。

 

天気が良いとキューガーデンの駅前はこんな風景。でもこの日は違った。

 

<次へ> <戻る>