カナルボートの旅

これがカナルボート。中は結構快適らしい

 

 今日はまず、リッチモンドに住むノリコを、「キューガーデン」(王立植物園)駅前で十時にピックアップ、そこから約百五十キロ離れたストーンヘンジに向かうことになっている。キューガーデン駅前に着くとまだ九時半過ぎ。車を停め、駅前の「スターバックス」でコーヒーを飲みながら約束の時間まで待つ。

 家を出るときは雨が止んでいた。運転中、少しの空が明るくなってきたように感じた。しかし、十時前に外へ出て空を見上げると、また暗くなってきたような気がする。

 駅の改札口の前で待っていると、十時ちょうどにノリコが現れた。

「あそこにモトさんのBMWが停まっているのが見えたもんで、そこにおられるのかと思って。」

「いやいや、『駅前』で待ち合わせですので、ここにいました。」

 そんな会話の後、ふたりは車に乗り込み、車は走り出す。高速四号線、環状の二十五号線でロンドン市街を迂回して、三号線に入り、サウスハンプトンに向かう。途中で高速を降りて五十キロほど、ストーンヘンジまでは約一時間半の行程である。

「ストーンヘンジに行くのは初めてですか。」

とノリコに聞いてみる。

「一度ツアーで通って、柵の向こうからさっと見たことがあるんですけど、中に入ってじっくり見たことはないんです。だから今日は楽しみ。」

彼女は言った。

 ノリコは、二週間ほど前、日本から来られたお姉さんと、そのお友達とで「カナルボート」の旅をしていた。「カナルボート」とは、運河を走る中で寝泊りの出来る細長い船。英国ではそのボートを借り切って、運河を伝ってノンビリと旅をしている人が結構いる。ノリコのお姉さんは、わざわざ日本から来ての、カナルボートの旅。なかなか「渋い」趣味を持っておられる。

 車の中で、その「カナルボートの旅」について話を聞く。

「車の運転ができなくても、ボートの運転はできるんです。」

と彼女は言った。カナルボートでは運転者は一番後ろに立ち、舵とエンジンの出力を操作する。車の運転が上手い人が、必ずボートの運転も上手いとは限らないそうである。ちなみに、ノリコは車の運転免許を持っていない。

 カナルボートと他の船の最大の違いは、水平方向のみならず、垂直方向への移動があることか。運河の水面に段差のあるところでは、「ロック」と呼ばれる水門があり、そこに水を入れたり出したりして、次の段へと移動していく。水門の開け閉めは、全て人力によるものであるから、これはなかなか大変そう。。

 ボートの中では、トイレはタンクになっていて汲み取り式、水は先々で補給する場所があるとのこと。エンジンを冷やした水が湯になって、暖かいシャワーも使えるそうである。

 

段差の水門はお尻で押すのがセオリー。

 

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