検査と書類

 

出発前に揃えた書類。漏れがないかのチェックが大変だった。

 

 僕は、昨年の一月から四月まで、日本に滞在していた。英国はロックダウンの真っ最中。日本では、僕が到着してから間もなく、緊急事態宣言が出された。まさに、どちらもコロナ禍の真っ只中の移動だった。その時の最大の問題は、入国後の検疫期間だった。三日間、関西空港にあるホテルに缶詰めにされた後、十一日間の検疫期間があった。その間原則的に、外出はできないし、公共交通機関は使えない。シンガポールにも長い間、同じような検疫があった。だから、二週間の休暇を取ってシンガポールに出向いても、検疫で缶詰めになって、身動きが取れないまま戻るということになってしまうのだ。しかし、今回、ワクチン接種を受けた者に関しては、二日間だけの検疫隔離で、外に出られる処置ができたという。

僕も妻も娘たちも、二度の接種を受けていた。息子がビザを取ってくれて、僕たちは十二月のクリスマスの前後に、シンガポールを訪れることになり、準備を始めた。しかし、国をまたがって移動しようとすると、両国に対して、いくつもの書類を用意しなくてはいけなかった。例を、挙げてみると。

l  シンガポール政府の発行したワクチン接種者に対する渡航許可証

l  英国出国四十八時間前に受けたPCRテストの陰性証明書

l  シンガポール入国時のPCRテストの領収書

l  英国での二回以上のワクチン接種を受けたという証明書

l  コーヴィッド保険の保険証

などなど。その他に、携帯にシンガポール側の「トレースアプリ」をインストールしておかねばならいとか、入国二十四時間以内にオンラインでシンガポールの入国申請をしなければいけないとか。家族四人で、分担を決めて書類を申請し、漏れがないか何度もチェックをした。それに、結構気を遣った。出発は、僕と娘たちが十二月十三日、妻が約一週間遅れの十二月二十一日。それに合わせて、準備を進めた。

 さて、十二月十三日、第一陣として、僕と娘たちがヒースロー空港を発つことに。飛行機の出発が一時間遅れた。理由は簡単、航空会社が、乗客の書類をチェックするのに長い時間が掛かったからである。それほどの書類の量なのだ。

「去年とはずいぶん違うなあ。」

僕は、ヒースロー空港の出国手続きをしながらつぶやいた。先ほども書いたが、僕がコロナ禍の中、飛行機に乗るのは今回が初めてではない。昨年の一月、僕は手術を受けるため英国から日本へ飛んだのだった。今回と当時を比べると、すっかり様子が違っている。一月当時は、英国はロックダウンの真最中。空港はゴーストタウンのように誰もいなかった。関空行の飛行機も十人以下の乗客だけ。しかし、今回は空港が結構混んでおり、搭乗手続きの長い列がある。シンガポール航空の飛行機は、五百人乗りの「エアバスA三八〇」、ほぼ満席のようである。

 

シンガポール海峡を航行する船と、チャンギー空港に着陸しようとする飛行機。シンガポールは交通の要所だ。

 

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