コーヒーは深い沼

 

分水嶺の向こう側に滝があった。この水は大西洋に注ぐことになる。

 

ホテルに落ち着いた後、六時半にMさんとAさんが夕食の場所に選んだホテルのレストランに向かう。ホテルは岬の先端にあった。レストランのテラスから、湖面に漁火が見える。何の魚を獲っているのだろうか。六時三十五分におふたりが現れる。先ほども書いたが、ふたりともとてもチャーミングな女性。それに加え、おふたりとも、サバサバ、ハキハキしていて、僕が質問する以上に、おふたりかもらどんどん質問が出て来る展開が新鮮だった。Mさんは二度目の赴任、Aさんは三月に来られたばかり。

「キブエに他に日本人の方はおられるんですか?」

と尋ねると、二人だけだという。

「寂しくないですか?」

と更に聞くと、ふたりで顔を見合わせてクスクス笑った後、

「気楽で良いです。」

との答えが返ってきた。

料理の注文は、「地元民」であるおふたりに任せることにする。とりあえず、ビールにサンバサとのこと。

「冷たいビールとサンバサ、これがとっても良く合うの。」

Aさんが言う。サンバサはキヴ湖で獲れる淡水魚。

「黙ってたら、何時持ってくるか分んないから。」

と言って、Mさんが現地語でウェーターを急かせている。その甲斐があって、二十分くらいでサンバサの唐揚げが出てきた。長さ七から八センチの、ちょっとイワシに似た魚である。カリカリと頭から齧る。

「美味い!確かにビールに合う。」

日本でこれに近い味を食べたような気がするぞ。僕は思い出そうとする。

「イカナゴのてんぷら!」

そうそう、食感といい、味といい、九州で食べたイカナゴに似ている。

「コーヒーは沼です。深〜い泥沼です。」

ビールとサンバサを食べ終わった頃に、Aさんが言った。

「それ、どういう意味ですか?」

と僕が尋ねる。

「コーヒーとは奥が深くて、一度関わったら、『終わり』というのがないんです。」

Aさん。コーヒーの木というのは、十年くらいで収穫量が落ちるので、切らなければならないことはアロイスさんから聞いていた。すると、同じ株から木が生えてきて、また収穫できる。それが五回ほど可能で、トータルで五十年ほどの寿命だという。

「こちらの農家の人は、余り木を伐りたがらないんです。収穫量が落ちた古い木でも、切ってしまうとまた収穫できるまで数年かかるでしょ。するとその間生きていけない人もいる。農業指導をするとき、単に技術的な側面からでなく、その農家でコーヒーからの収入が何パーセントを占めているかとか、社会的な側面からの分析が必要なんです。」

なるほど、それは難しそうだ。

 

峠を越え、坂を下るとキヴ湖が見えてくる。対岸は「コンゴ共和国」である。