珈琲道

 

コーヒー農園の、乾燥する場所。並べた後、黒いカバーをかけている。

 

僕にとってもうひとつ興味のあったのは、おふたりが何故ルワンダに来たいと思ったのかという動機、どのようにして来られることになったのかという過程だった。希望した国に行けない人もいるとGさんから聞いていた。

「赴任国を第三希望まで書けたのですが、私はルワンダを一番に書きました。」

Hさんが言った。彼女は相思相愛が実ってここへ来られたわけだ。

「私はコーヒーの栽培指導で海外に行きたかったんですが、なかなか希望通りの要請に巡り合えなかったたんです。三度目でやった見つかって、ここに来たんです。」

Yさんが言った。

「一度で見つからないと、次回までどれだけ待つんですか。」

「半年から、一年です。」

サラッと言われたが、正直驚いた。Yさんにとっては永年の念願が叶ったということだ。

「もう半年ほどで任期が終わって、日本へ戻らないといけないんですけど、今やっている色々な試みの結果が出る来年の収穫期なんです。それまで居られないのが残念です。自費で来るかも知れないな。」

コーヒーの収穫期は四月から六月頃。したがって、僕たちが訪れたのは、ちょうど収穫期で忙しい時期だったことになる。すみません。お忙しいのにお邪魔して。

その日は、地元にお住まいの皆さんご推薦の地方料理が食べられてよかった。ウサギのシチュウが美味しかった。Yさんはお仕事の他に、地元のサッカーチームでプレーしておられるそうである。

Yさんからコーヒーにまつわる「熱い」お話を聞いて思った。「珈琲道」は「茶道」や「ワイン道」以上に奥が深いと。まず産地によって味が異なる。次に収穫された年の気象条件によって味が異なる。更に、豆の加工過程や状態、品質によって味が変わってくる。厳選された豆も、煎り方、挽き方、淹れ方によって味が変わる。最高のコーヒー豆でも淹れ方が悪いと台無しになるだろう。それだけの要素が複雑に重なり合って味が決まるわけだ。

「ワインは、ボルドーはサンテミリオンの一九九六年物を、三十五分間デカントしたものに限りますな。」

というところが、コーヒーでは、

「コーヒーは、フイエのXXさんの山で二〇一八年に収穫され、第二ウォッシュ・ステーションで選別され、二十一日間乾燥されたものを、二百度で二十三分間煎って、七分間粉の直径が零点七ミリになるまで挽いて、九十七度の湯で煎れた物に限りますな。」

などということになる。

夕食を終わって外に出ると、停電が回復したらしく、街灯が点いていた。しかし、辺りが暗いので星がよく見える。星を眺めるのが好きな僕だが、星座を見つけるのが何故か難しい。よく考えたら、北緯五十度の英国で見える星と、赤道直下のここでは、見える星は違うのだった。

「お身体にはくれぐれも気をつけてくださいね。」

と言って、ふたりの隊員さんと別れる。ホテルに戻って、部屋に入ったとたん、また停電した。

 

ミスター・コーヒーのアロイスさんと農場の事務所の前で。

 

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