フイエの夜

 

両親たちと一緒に、運び込んだコーヒーの果実の選別をする少年。

 

暗闇は突然やってきた。場所はフイエのホテル。ルワンダに停電が多いと聞いていたが。午後六時過ぎ、緯度の高いヨーロッパではまだまだ明るい時間だが、赤道に近いルワンダでは六時になると律儀に暗くなる。Gさんと妻と僕は、その夜、フイエに住む海外協力隊のふたりの隊員さんと夕食をとることになっていた。ルワンダ行きが決まったとき、僕はGさんに、できるだけ多くの隊員さんと話をさせて下さいと頼んでいた。これまで、ソロモン諸島やヨルダンなど、彼の任地をあちこち訪れたが、隊員さんとお会いして、色々なお話を聞くことが、一番楽しくためになったからだ。Gさんは僕の希望を聞いて、フイエの隊員さんとの食事をアレンジしてくれていた。

外出の準備中に停電。暗い中、携帯電話の灯りを頼りに身支度を済ませる。六時半にホテルの門のところで、男性隊員のYさんと、女性のHさんに会う。

「こんにちは、モトです。家内のマユミです。」

と暗い中で自己紹介をする。地元のレストランへ行こうと歩き出す。辺り一帯が停電しているらしく、道も周囲の家々も暗い。まだ空に少し明るさが残っているので、漆黒の闇ということはないが。

「この停電、結構長く続いているんで、自家発電のある大き目のホテルへ行った方がいいかも知れませんね。」

というYさんの提案で、僕たちはフイエで一番大きなホテルへ向かった。大統領も時々泊まるというそのホテル、予想通り電灯がついていた。

ホテルの食堂に入って、明るいところで改めて自己紹介をする。おふたりとも二十代。若さが眩しい。礼儀正しい青年たちである。Yさんは、郡の農業課にお勤めで、コーヒーに関する農業指導をしておられる。これまで、ずっとコーヒー関係のお仕事されており、ハワイのコーヒー農園で働いた経験もお持ちとのことだった。Hさんは、聾学校の先生で、耳の不自由な子供に、美術と音楽を教えておられるとのこと。

「えっ、耳の不自由な人たちに、『音楽』ってどうして教えるんですか。」

と妻と僕が同時に質問する。そのためのメソッドがあるそうだ。

「例えば、ダンスなんかを一緒にすることによって、耳が聞こえなくても、リズムとかが分かるんです。」

「なるほど。」

なかなか興味深い。僕がおふたりに質問したことは、

「アフリカ、特にルワンダって、過去に例の事件もあったので、一般的な日本人には、あまり評判の良くない国ですよね。ご両親は、赴任が決まった後、心配されませんでしたか。」

と言うこと。自分がおふたりの両親の年齢で、自分たちにも同じくらいの年齢の娘や息子がいるので、ついその視点で考えてしまう。

意外なことに、Yさんのご両親は、

「お前が海外に行きたいなら、若いうちに早く行け。」

と後押ししてくれたとのこと。Hさんの場合は、彼女にとって初めての海外生活にも関わらず、ご両親は快く送り出してくれたという。ただ、Hさんの同僚の中には心配していた人もいたとのこと。ふたりとも、自分のやりたいこと、使命感をしっかりと持っておられるという印象を受けた。頼もしい。

 

ふたりの隊員さんと郷土料理を食べる、ウサギの肉が美味しい。「ウサギおいしいかの山」とはよく言ったもの。

 

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