地上の楽園

 

重い荷物を男性は自転車に乗せて押して運ぶというのが普通のようだ。

 

この場所に絵葉書はないが、ひょっとして後で見つかるかも知れないと思い、郵便局で切手だけ買う。少し街中をウロウロした後、今度はバスで帰ることにする。バスカードにチャージをしてくれるおばちゃんに、Gさんの家の近くのバス停の名前を言う。

「三〇二に乗りなさい。」

とのこと。しばらくすると、マイクロバスが来た。運転席の窓ガラスに「三〇二」と書いた紙が貼ってある。何とか乗り込むが、助手席まで下ろしてほぼ満員。降車のためのボタンはなく、降りたい人は、窓枠か天井を叩いてカンカンという「金属音」出すというのがルールだった。街やバスの中で、周囲は全部黒い人たちなのだが、英国にも黒人の方たちが沢山いるので、不思議に違和感はない。

その日の夕方、一日遅れで妻のマユミが到着。Gさんとふたりで空港へ迎えに行く。職業柄、空港建物の奥まで入れるGさんが、入国審査を通り過ぎた妻に話しかけて、連れてきた。

「もうひとりアジア人の女性がいたので、どちらがマユミさんか迷った。」

Gさん。

「この前お会いしたのはいつだったかしら。」

と妻はGさんと一緒に考えている。おそらく、二十年以上ぶりだということになった。

三日目、土曜日の予定は、フイエという町にあるコーヒー農場を訪れること、そしてフイエの近くで働いている協力隊の隊員さんの何人かにお会いして、お話を伺うことである。朝八時にキガリをGさんの運転で出る。途中バスターミナルのカオス的な場所を通り抜けた後は、丘に沿ってゆっくりとカーブし、なだらかな起伏のある道路を進む。道路は南の国境へと通じる幹線道路とのこと。整備が行き届いている上に、掃除も行き届いていて、道端にはゴミひとつ落ちていない。道路の脇の草むしりをしたり、箒で掃いている人々何人も見た。ルワンダの国道沿いは、英国のそれよりもはるかに清潔。途中で、色々な人々とすれ違ったり、追い抜いたりする。歩行者や自転車が、車線に近いところを歩いたり走ったりしているので、運転していてちょっと怖い。英国や日本の田舎だと、集落があってそこからしばらく草原や林や森があってまた村がある、そんな雰囲気だが、ルワンダでは常に両側に家があって、常に人々が道路を歩いている感じ。ルワンダはアフリカの中でも最も人口密度の高い国だということを、納得させられる。両側の景色は、緑に覆われたなだらかな丘がどこまでも続き、本当に美しい。丘と丘の間には水田があるらしく。そこで働いている人の姿が見える。

「本当に『地上の楽園』だね。」

と妻と言い合った。この「地上の楽園」という言葉、ロメオ・ダレールが初めてルワンダに着いたときの印象として使われている。(実は数ヵ月後、そこは地獄に変わるのだが。)「地上の楽園」、この言葉を、妻と僕は今回何度使うことになるのだろうか。道路脇には、頭の上に荷物を乗せて歩いている女性、重い荷物を自転車に乗せて坂道を押している男性、薪を集めている子供たち、綱でつながれた山羊などが見える。子供から山羊に至るまで、太った人と山羊は見当たらず、皆スリムな体つきである。子供は皆可愛い。黒い顔のなかに、子供らしいクリキリした白い目が、好奇心に満ちて僕たちを眺めている。

 

そして女性は頭に乗せて運ぶ。坂道でも、絶妙のバランスで、スイスイ行ってしまう。

 

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