ミスター・コーヒー

 

ハジレストランのテラスで。後方には「千の丘」が連なっている。

 

「ルワンダは立ちションの出来ない国なんです。」

Gさん。

「常に傍に人がいるから。」

確かにそうだ。人が見えない時間がない。二時間ほど同じような景色の中を走る。ニャンザという町の、「ハジ」というレストランでトイレ休憩と時間調整をする。そこは、ちょうどテラスのようになっている場所で、眺望が特に美しい。車を停めると、金属のトレーに、竹の串に刺して焼いた肉を持った男性がやってきた。Gさんが三本買って、二本を僕と妻に渡してくれる。かなり硬くて噛み切るのに苦労するが、噛んでいるうちに、味が出てきて美味しい。

「これ、何の肉?」

Gさんに尋ねると、山羊だという。ブロシェットという郷土料理とのこと。

フイエの町に入る。大きなスタジアムがある。土壌が赤土らしく、アスファルトの道路も赤い色をしている。

「アフリカの土は鉄分を含んでいるので赤いんです。」

Gさん。アフリカが「赤い大陸」と呼ばれるのはそのためなのだろうか。

フイエの街中で、中華レストランに入って昼食を取る。本当に中華レストランは地球上のどんな場所にもある。昔、オーストリアとハンガリーの国境の小さな村で働いたことがあったが、そこにも中華料理店があった。

「おそらく、南極にもあるんじゃないかな。」

僕は思った。ルワンダのフイエで食べる麻婆豆腐と鶏手羽というのも、予想外で楽しい。こちらのレストランでは、石鹸の入った洗面器と、ぬるめのお湯の入ったポットを持った女性が、食事の前後にテーブルに来てくれる。食事の前後に手を洗ってスッキリということらしい。何とも行き届いた心遣い、僕は感心してしまった。

昼食の後、「フイエ・マンウテン・コーヒー農場」に向かう。そこで、「コーヒーツアー」に参加するためだ。ツアーのスタートは午後一時。しかし、僕たちは町から農場に向かって走るうちに道に迷ってしまった。赤土の未舗装のかなりひどい状態の道を進むが、なかなか着かない。一度フイエの町まで戻り、そこでひとつ早く角を曲がったことに気付く。結局農場の前に着いたのは、一時半。三十分遅れだった。途中、ガイドをしてくれる方に僕が電話をして、遅れる旨を伝える。

「あの、Gさんの同僚のモトというものですけど。」

「はいはい、モトさん。こちら『ミスター・コーヒー』です。」

「ミスター・コーヒー」と自分で名乗ってしまう自信に感心しつつ、遅れる旨を伝える。

「大丈夫、大丈夫、午前中のグループが遅れているのでちょうどいい。」

農場に到着し、応接室で三十分ほどコーヒーを飲みながら待っていると、「午前中のグループ」と「ミスター・コーヒー」が戻ってきた。英国人、アイルランド人、オランダ人らなる「午前中のグループ」の面々はかなり疲れきった表情。

「ああ、疲れた。」

と言って、待合室のソファに座り込んでいる。この「コーヒーツアー」、かなりハードらしい。

 

郷土料理のヤギの串焼きに舌鼓を打つGさんと妻。食事と言うよりおやつのようだ。

 

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