金魚へのお土産

 

これが大リーグボール養成ギブスの実態なのだ。

 

十月十二日、六時半に起きて、ウェートをつけてロードスシティーまで歩く。マユミも付いてきて、一緒に波打ち際を歩く。波が極めて穏やかで、まるで池の横を歩いているよう。海底が透けて見える。

「底がそこそこ見えるね。」

それを聞いたマユミがムッとしている。

波打ち際をウェートをつけて歩くのは結構大変。おまけに、曇り空ながら、ロードス島に着いてから、一番暖かい朝のようだ。汗が出る。

マユミは、「大リーグボール養成ギブス」となかなか言えない。

「大リーグギブス。」

「違う違う『大リーグボール養成ギブス』。」

「大リーグ養成ギブス。」

「違う、大リーグを養成してどないすんねん。『大リーグボール養成ギブス』。」

「大リーグボールギブス。」

「もう、違うって言うのに。」

ホテルの直前で、その「大リーグボール養成ギブス」をマユミに装着する。

「きゃあ、重い。夢の中で歩いてるみたい。」

海岸で綺麗な石を何個か拾う。ロンドンに帰って金魚の水槽に入れようと思う。子供達への土産は買っていないが、まずペットへの土産ができた。

その日は一時間半くらい歩く。汗をかいたのでシャワーを浴び、九時より朝食、久々に外のテラスで朝食を取る。Tシャツ一枚で全然寒くない。

今日は近場を見て回ることにする。十時に出て、ロードスシティーの郊外のスミス山に行く。ギリシアにしては変な名前だが、英国人のスミスという人が発掘したのでこの名前が付いているとのこと。ここはロードスシティーの元アクロポリスで、古い神殿の跡と、古代の競技場の跡があるという。

ロードスシティーの狭い道を山に向かって五分ほど走る。古代の神殿の柱が見えたのですぐ分かった。一帯は、この島をヨハネ騎士団や、オスマン・トルコが占領する前の、古代ギリシア時代の遺跡である。

車を停めて、神殿の跡を歩く。神殿の柱は四本が残っているに過ぎない。しかし、土台の石から、結構大きな神殿であったことが予想される。観光客も多い。

神殿に比べると、競技場は保存状態が良かった。長さ二百メートルほどの細長い競技場で、まだ陸上のイベントに使えそうだ。映画「ベン・ハー」の戦車競走のシーンを思い出す。石の座席に座っていると、当時の観衆になったような気がする。

スミス山から、ロードスシティーの反対側を見ると、西海岸、いつも散歩する道、それに僕達のホテルが見えた。この山はホテルの裏山だったのだ。

 

二千数百年前に作られた古代競技場、まだ陸上競技のイベントに使えそう。

 

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