薔薇の花咲く島

 

聖ヨハネ騎士団が五ヶ月の間持ちこたえた旧市街を囲む城壁。

 

今日はロードスシティーに行ってみることになった。ロードスシティーの旧市街は世界遺産に指定されている。と言うことは、奇しくも、ダーラムに続き、四日間でふたつの世界遺産の街を見ることになる。

今回の休暇に、僕は三冊の本を持ってきていた。スウェーデンの作家、スティーグ・ラーソンの「火と戯れる女」、これはドイツ語、それと「ロードス島戦記」、塩野七生の「ロードス島攻防記」だ。このうち、「ロードス島戦記」は、コンピューターゲームのリメーク本で、ギリシアのロードス島とは何の関係もなかった。

「ロードス島攻防記」は、十六世紀、ロードス島に立て篭もる聖ヨハネ騎士団とそれを攻撃するトルコのスレイマン大帝の話。今日訪れるロードスシティーの旧市街は、まさにその戦いの舞台となった場所。非常に興味深い。

海岸沿いの路上に駐車し、海岸に沿って歩く。カジノの前を通る。「客から巻き上げた金」で建てた大きな建物。その後、駐車場があり、脇にベネチア風の建物があった。ミコノス島ややサントリーニ島では建物が白く塗られており、それが青い空と青い海に映え、ギリシアの国旗のように「白と青の世界」を作り出していた。しかし、ロードス島では、城壁も、建物もベージュ色の石で作られている。

海岸沿いの昔の軍港には、あちこちへ行く観光船、遊覧船が並んでいる。向こう岸の堤防に沿って、風車が三つ立っている。「ロードス島攻防記」の主人公のひとり、イタリア人のアントニオがこの港に入る場面を、塩野七生は次のように描いている。

 

「風の強いエーゲ海の島々では、小麦を粉にするのに風力を利用することが多い。だが、背後を山に守られたジェノヴァ近くの海沿いに生れ育ったアントニオには、マエストラーレと呼ばれる強い北西風には馴染みがうすく、風車の列はひどく新鮮な景色に映るのだった。それでも、観察力の鋭い若者は、堤防の上に可能な限り間隔をつめて並んでいる風車の列が、港に入った船を風から守る役目をしている事実にも気づいていた。」

 

港の向こうは、高い塀で囲まれた旧市街。その城門のひとつを潜って中に入る。あちこちに赤い大きな花が咲いている。庭仕事が好きで、花の名前に詳しい義母によると「ブーゲンビリア」だという。この花の名が由来するブーゲンビル島は、僕が訪れたガダルカナル島の近くの島、当時の連合艦隊司令長官、山本五十六が戦死した島でもある。

「ロードス島攻防記」の中で、これらの花については、次のように語られている。

 

「薔薇の花咲く島、という意味からロードス島と呼ばれるようになったとは、アントニオも知っていたが。古代では咲き乱れられていたと伝えられる薔薇は、千五百年後の今ではさほど目立たない。だが、それに代わって、ブーゲンビリアの赤紫とハイビスカスの真紅、夾竹桃の白と赤、レモンの実の黄色が、濃い緑色の上に解き放たれた感じだ。おそらく、春先までは、アーモンドのあの雪のような白い花が、全島をおおっていたのであろう。」

 

街の至る所に赤い花が咲いていた。

 

<次へ> <戻る>