「お隣のご迷惑にならないようにお酔いください」

Saufen nur in Zimmerlautstärke

 

2017年)

 

 

<はじめに>

 

「神様降臨シリーズ」で人気を博したハンス・ラートが、新たに挑んだコメディー。今回は「トロール」が登場。トロールは、北欧の国の伝承に登場する妖精の一種である。アイスランドで、ひょんなことからトロールと出会ったドイツ人のアダムは、トロールをドイツに連れ帰る。そこでトロールが引き起こす悶着の数々が描かれる。

 

 

<ストーリー>

 

 昼休み散歩をしていたアダムは急に胸が苦しくなり倒れ込む。人々が集まり、誰かが救急車を呼ぶ。アダムは、自分の魂が肉体から離れ、空中に浮かぶのを感じる。アダムが上から倒れている自分を眺めていると、救急隊が到着し、自に蘇生術を行っている。突然、足を掴まれて引き戻される。彼が目を覚ますと、そこは病院だった。中国人の医者、ハンは、

「何故あんたの心臓が突然止まったのか分からない。ともかく、検査の結果どこも悪くない。」

と言う。医者は、仕事や家庭でのストレスについてアダムに尋ねる。アダムは確かにストレスだらけだった。弁護士という仕事は好きだが職場に不満を感じ、妻コニーとの結婚生活は危機を迎えていた。彼とアストリッドという女性の不倫が妻にバレたのである。アダムは愛人とは別れて、妻の下に戻ることを周囲に約束していた。彼は、煙草を吸い、酒を飲み、運動もしていない。医師は、

「一度休暇を取って、心と身体を休める機会を作った方がいい。」

と忠告する。

「もう少し検査をすれば。」

という医師の誘いを断って、アダムは仕事場の弁護士事務所に向かう。そこは義父のライナーの経営する会社であり、娘婿のアダムは、パートナーだった。

「午前中元気で働いていたのに午後に突然死んだ人はいる。午前中死んでいたのに、午後から元気で働く人というのは、聞いたことがないな。」

とアダムは思う。

アダムが遅れて帰って来たので、義父のライナーは怒っていた。その日の午後、彼はゲッツラーという客とのアポイントがあった。保険会社を経営するゲッツラーは、税金逃れのため、所得を世界各地のタックスヘイブンに分散していた。それについてアドバイスをしていたアダムだが、最近は余りに露骨な脱税行為に、良心の呵責と、危険を感じ始めていた。

アダムは翌日再びハン医師を訪れる。アダムは、休暇を取ろうと思うので、「診断書」を書いてくれと医師に頼む。

「どこへ行きたいんですか。」

という医師の質問に、アダムは答えられない。医師は、世界地図にペンを投げつけ、当たったところに行けばという。当たったのは大西洋のど真ん中。結局そこから一番近い陸地であるアイスランドに行くことになった。

「患者の心臓の状態を詳細に検査するため、アイスランドの専門医、X医師を紹介いたします。」

との紹介状を書いて、ハン医師はアダムに渡す。X医師は、実在はするが、ハン医師がインターネットで探し当てた人物であり、知り合いでも何でもなかった。

 アダムは、家に戻り、秘書にアイスランド行きの飛行機を予約するように言い、妻と義父に、アイスランド行きについて話す。最初は、懐疑的だった妻のコニーも、医者の紹介状を見て、ようやく納得する。

 娘のレーナが電話をしてくる。結婚が破談になったという。彼女はジュネーブでオーペアをしていて、そこの家の息子と懇意になり、結婚の約束をした。結婚式の日程を決める段階になって、相手の両親が断ってきたという。アダムは、とりあえずベルリンに帰るように娘に言う。レーナは、夜行列車に乗り、明朝ベルリンに戻ると言う。アダムは、翌日の午後、アイスランドのレイキャビクに向かうことになる。

 翌日の深夜、アダムはレイキャビクに着く。深夜ホテルの部屋に入ると、誰かが既にベッドに寝ている。それは、かつての不倫の相手のアストリッドだった。彼女は、弁護士事務所の秘書から、アダムの行き先と宿泊先を手に入れていたのだった。アストリッドは、アダムをベッドに誘う。しかし、妻との再起を決めていたアダムはそれを拒否する。アストリッドは部屋に戻る。翌朝、アダムが目を覚ますと朝食が部屋に届く。アストリッドが注文しておいたものだった。彼女は既にホテルを去っていた。

 アダムはレンタカーを借りて、アイスランドの海岸線に沿ってドライブをする。アイスランドの天気は変わり易い。彼が断崖の上に車を停めて、景色を見ていると、下の岩場に女性がいる。彼女は海に飛び込んだ。女性が溺れていると思い、助けに行こうとしたアダムだが、彼自身が強風に煽られ、崖から足を滑らせる。

「助けてくれ!」

何とか崖の淵にしがみついているアダムを、引き揚げてくれた人物がいた。その男は、身長百四十センチにも満たない人物だった。

「ありがとうございます。助けていただいたお礼に、一緒にお連れします。」

そう言って、アダムはその人物を車に乗せる。その男は、マグヌス・マグヌスソンと名乗る。

「どこまでお連れすればいいですか。」

とアダムはマグヌスに尋ねる。

「あんたはどこから来たんだ。」

と、逆にマグヌスは尋ねる。アダムがベルリンから来たと言うと、マグヌスはベルリンまで乗せてくれという。アダムはそれを冗談だと思い、自分の泊まる予定のホテルの前で、マグヌスを降ろす。マグヌスは近くで野宿をするといって去って行く。夜になり、アダムがベランダに出ると、マグヌスが現れる、アダムとマグヌスは一緒に食事をする。食事の後、マグヌスはまた闇の中へ去って行く。

翌朝、アダムは義父のライナーからの電話を受ける。妻のコニーがもう二度と会いたくないと言っているという。コニーは、アダムが診察を受けるという医者について調査をした。そして、その医者が単なる公立病院の勤務医であることを発見した。そして、昨夜アストリッドがアダムと同じホテルに居たことを探り出した。アダムは、義父に対して、昨夜アストリッドに会ったのは、彼女の単独行動で、自分は知らなかったと主張する。彼は妻の誤解を解くためにすぐにベルリンに戻ろうと決心する。

空港に駆け付け、搭乗口に向かったアダムの手荷物が、危険物探知機に引っ掛かる。ナイフとハンマーが入っていたからだった。彼は、係官に呼ばれ、尋問を受ける。アダムはナイフとハンマーについては、自分は知らない、誰かが自分の鞄に入れたと主張する。係官は、ナイフとハンマーは、トロールが使うものであるという。

アダムが危うくテロリストとして逮捕されかかったとき、マグヌスが現れる。マグヌスは、ナイフとハンマーは自分の物であり、自分がアダムの鞄に入れたと証言する。

「あんたたちの関係はどのようなものなんだね。」

という取調官の質問に対して、マグヌスは、

「自分はこの人の命を助け、この人は自分を好きなところへ連れて行ってくれると約束した。」

と話す。アダムもそれを認めざるを得なかった。結局、アダムは、

「トロールを国外に連れ出し、国外で生活させ、無事アイスランドに連れ帰るまでの全ての責任を負う。」

という誓約書にサインをさせられ、マグヌスと一緒に、ベルリン行きの飛行機に乗る。

飛行機の中で、マグヌスはスターであった。

「トロールに触ると幸運が訪れる。」

という言い伝えを信じたパイロットや、キャビンアテンダントたちが、彼をコックピットやビジネスクラスに招待し、チヤホヤしたからである。マグヌスも調子に乗って、シャンペンなどを注文した。勘定は全てアダムが払うことになるのだが。

ベルリンに着いたアダムは、妻のコニーが自宅に泊まることを拒否しているため、ホテルに滞在することになる。アダムとマグヌスは、ヘルガ・ポールという未亡人が経営する、薄汚れたホテルに腰を落ち着ける。仕事場に顔を出すためホテルを出るアダムは、

「もし、何か欲しいものがあったら買っていいから。」

と言って、マグヌスに二十ユーロ札を渡す。

アダムが弁護士事務所に着くと、別の人物が自分の席に座っている。その人物はアダムのクライアントのファイルを読んでいた。彼は、義父のライナーが、自分の留守中に、自分を重要案件から外そうとしていることを知る。

ホテルに戻ったアダムは、ホテルの女主人に、

「出るときには元通りにしていってくださいよ。」

と言われる。何のことか分からず、部屋に戻ったアダムは、部屋の中に設えられた、ジャグジーを見て驚く。マグナスが注文し、部屋の中に作らせたものだった。同じホテルに泊まっている男女も、ジャグジーに入っている。

「そんな金をどうしたんだ。」

とアダムはマグヌスに聞く。

「あんたのクレジットカードを使わせてもらった。」

とマグヌスは涼しい顔で言う。アダムが慌てて財布の中を探すと、クレジットカードがなかった。アダムはその他にも、オーダーメイドの洋服、スマホにタブレット、ジェットスキーまでをオンラインで注文したと言う。アダムが、早く注文を取り消すようにと言うが、マグヌスは、アイスランド大使館に送られた誓約書のコピーを盾に、全てを特急で注文したという。

アダムは諦めて、マグヌスと食事に行くことにする。軽食堂で、アダムはビールとフライドチキンを注文する。マグヌスは、鶏肉の骨までバリバリと食べてしまう。トロールは、厳しい冬を生き延びるため、動物の骨から、貝の殻まで食べる習慣になったという。マグヌスは、自分たちトロールは、人間から隠れて、滝の後ろなどに集落を作って住んでいるという。そして、自分は百三歳であるが、トロールは三百年近く生きるので、まだ青年であると話す。魚や動物を獲って暮らしているが、必要な物があると、人間と物々交換をする。通常、人間から黙って物を受け取り、その代わりに、人間に「幸運をもたらす石」を置いていくとマグヌスは言う。

「それって、泥棒じゃないの。」

とアダムは言いかけるが、思いとどまる。その代わりに、

「じゃあ、きみは僕にも、幸福をもたらすことができるか?」

とマグヌスに聞く。マグヌスは、アダムに「幸福のお徳用詰め合わせ」を贈ることを約束する。

 アダムは、翌日、アダムは、義父のライナーより、クビを告げられる。彼は、アイスランド大使館員と会う。大使館員は、トロールが国を離れるとき、彼らが何をしでかすか分からないので、特に注意が必要だと述べる。前回アイスランドから米国に渡ったトロールは、シカゴで大火災を引き起こしていた。アダムがブランデンブルク門を通りかかると、近くで煙が上がっているのが見える。アダムに嫌な予感がする。彼が家事の現場に近づくと、シュプレー川に浮かぶ観光船が炎上し、沈みかかっていた。人々が集まり、その様子を写真に撮っている。アダムは声を掛けられる。マグヌスであった。

「宿の女主人の猫が死んだので、弔いのために、火を点けたカヌーに乗せ、川に放ったら、カヌーが観光船にぶつかって、火が燃え移った。」

とマグヌスは話す。アダムは真っ蒼になる。

「大丈夫、船には誰も乗っていなかったから。」

とマグヌスは涼しい顔をしている。

「ここからウォータージェットで脱出したいんだけど、ちょっと警察の目を逸らせてくれないかい?」

とマグヌスはアダムに頼む。マグヌスを何とか現場から無事に脱出させたいアダムは、服を脱ぎ捨て、

「何て暑いんだ、水泳の時間だ!」

と言って水に飛び込む。

「ここは遊泳禁止だ!」

警察のボートが彼の方に向かってやって来る。アダムはその隙にマグヌスがウォータージェットで走り去るのを見る。アダムは警察に拘束される。

単なる「狂った水泳好き」ということで、釈放されそうになったアダムだが、改めて拘束される。弁護士事務所の彼の引き出しの中に、人骨が発見されたという。しかし、骨が、数百年前のものだと分かり、アダムは結局釈放される。

 アダムが警察で借りたバスローブを着てホテルに戻る。マグヌスは帰っており、アダムに客があるという。アダムが部屋の中に入ると、アストリッドがジャグジーに入っていた。アストリッドは、レーナの雇い主のシュタイナーとビジネス上の関わりがあり、シュタイナーが不法な脱税を行っていることを調べ上げていた。ドアがノックされる。マグナスだと思ってドアを開けると、立っていたのは妻のコニーだった。彼女は裸で向き合っているアダムとアストリッドを見て、ショックを受けて立ち去る。

 職を失い、結婚も破局を迎え、落ち込むアダムに、マグヌスは、

「気分転換に飲みに行こう。」

と誘う。街中のクラブで飲むうちに、アダムは気分が悪くなり、外に出る。四人の男が黒塗りの車から降りてきて、アダムを取り囲む。

「シュタイナーの息子に、あんたは法外な要求を突き付けた。それを取り下げないと、痛い目に遭ってもらうことになる。」

と一人の男がアダムを脅す。レーナの元婚約者の父親から頼まれた暴力団であった。アダムがナイフを突き付けられているところに、マグヌスが現れる。

「男は戦う時は戦うのだ!」

そう叫んで、マグヌスは、持っていたハンマーで、男たちのすねを攻撃する。男たちが、倒れたところに警察が到着する。アダムも男たちも、

「何でもない。」

と警察に言い、その場を去る。

翌朝、マグヌスが、

「もう金の心配はしなくていいから。」

と言って、数千ユーロの金をアダムに渡す。

「どうしたんだ、この金。」

アダムが驚いて聞くと、

「バイキングの財宝を売って作った。」

とマグヌスは言う。不安になったアダムは、ニュースを見る。シェーンブルン城から、北欧に関する展示品が大量に盗まれたという。マグヌスはベッドの下にある、バイキングの財宝を見せる。

「大丈夫なのか。」

とアダムはマグヌスに叫ぶ。

「トロールが見られたくないと思ったら、人間はトロールを見ることはできない。」

とマグヌスは自信満々に言う。

そのとき、アダムに電話が架かる。電話は義父のライナーからのものだったが、相手は若い女性だった。

「ライナーが倒れたの、直ぐにホテルに来て!」

女性は言う。アダムがマグヌスを連れてホテルに着くと、ちょうどライナーが運び出されるところだった。部屋には妖精の格好をした、若い女性がいた。ふたりの話によると、

「私たちは『妖精セックス』をするために、雇われて来たの。一カ月に一度、あの男性は、私たちに注文を寄越した。ずっと前から、自分に何かあったらと、電話番号を教えてもらっていた。それがあなたの電話番号だったわけ。」

と女性は言う。アダムは、ライナーが「いざというとき」には、自分を信頼していたことを知る。アダムはホテルの部屋代、エスコートガールの手当てを払い、浴室で風呂に入って遊んでいる女性とマグヌスを残してホテルを出る。

 アダムは病院に運ばれた義父のライナーを訪れる。医者によると、ライナーの心臓の状態はかなり深刻で、仕事を続けることは出来ないだろうという。それを知ったライナーは、自分は引退して、弁護士事務所をアダムに任せると言い出す。また、コニーがアダムに会いたくないと言っていたのは嘘で、コニーはまだアダムとやり直す気があると言う。アダムは、自分に急に運が向いてきたと感じる。

 アダムが病院からホテルに戻ると、ホテルに警察のテープが張られている。経営者のヘルガによると、警察が、シェーンブルン城から盗まれた美術品の件で、捜査令状を持って現れたという。警察はマグヌスを疑っているのだ。

「絶体絶命だ。」

と観念したアダムだが、

「部屋にあった美術品は、掃除のとき持ち出して、従兄弟頼んで換金してもらっているわ。」

とヘルガが言い出す。結局警察は、盗品を見つけられずホテルを去る。アダムはひとりの警視から、アダムのオフィスの机の引き出しの中に入っていた人骨は、グリム兄弟のもので、最近、誰かが墓を暴いて持ち出したものであることを知る。

トロールのマグヌスと出会ってから、最初自分の回りにアンラッキーなことばかり起こると思っていたアダムだが、ここにきて、幸運が舞い込んできていることを感じる。これは、トロールの魔法、マグヌスのお陰なのだろうか・・・

 

<感想など>

 

 ハンス・ラートのコメディー、「神様降臨」の三部作で人気を博した。その次作である。ラートは、言葉ではなく、シチュエーションで笑わせる人、いつも、奇抜なシチュエーションを作る。「神様」次、今回は「トロール」である。

「トロール」とは、北欧の諸国に伝わる伝説の妖精である。「髭面で武器を携えた大男」として描かれることが多いが、今回、トロールのマグヌスは、「足が短く、身長百四十センチに満たない」という設定になっている。マグヌスが語るアイスランドのトロールの特徴とは、

@    トロールが自分で姿を晒さない限り、人間はトロールの姿を見ることができない。

A    トロールは三百年近く生きる。

B    トロールは人間とは全く別の価値観を持っている。トロールは人間と物々交換をして生きているが、人間は、トロールが代わりに置いていった物の価値について、気付ことがない。

この三つが、この物語の伏線になっている。また、北欧の人々は、トロールに触ると幸福になると信じている。トロールは人間に幸運をもたらす生き物なのである。映画「となりのトトロ」とちょっと展開が似ているが、トロールはトトロより、知的でおしゃべりである。「人間とトロールの友情を描く意欲作」という宣伝文句がつけられそう。

 アイスランドを訪れ、崖から落ちかけ、腕一本で崖にしがみついていたアダムは、トロールのマグヌスに命を救われる。

「一緒に来ませんか。」

と言ってしまった手前、断れず、マグヌスをベルリンに連れ帰る。おまけにアイスランドの、「特別天然記念物保護法」のような「トロール保護法」にサインをさせられ、滞在中の全責任を負わされることになって。

 ベルリンに着いたトロールのマグヌスは、彼の、いやトロールの価値観に従って、色々なことをやり始める。そして、それが「保護者」であり人間であるアダムの価値観と大きく違うことは言うまでもない。とんでもないことをやりながら、それにトロールなりの理論を当てはめ、滔々とその正当性を説くマグヌスの姿が、笑いを誘う。

 アダムがアイスランドに行ったのは、一種の現実からの逃避である。仕事においては、脱税行為の片棒を担がされているのではないかという両親の呵責、結婚生活においては、自分の不倫から発した妻との関係の危機、娘婿をこき使う同じ弁護士事務所にいる義父、娘のレーナの婚約破棄問題、八方塞がりな状態で、彼はアイスランドを訪れる。そして、そこにはまた、かつての不倫相手のアストリッドの罠が・・・彼はトロールのマグヌスに出会い、本来なら、彼は幸運を掴むはず。しかし、それから起こる出来事は、更に彼の足を引っ張ることばかり。そんな中で、アダムが、どのようにして「トロールのもたらす幸運」を享受できるのかが、このストーリーの焦点になる。

喜劇に外国人を登場させるのは、かなり常套手段である。とりあえず、文化と文化の違いや、違う習慣や文化のぶつかり合いは、笑いの対象になる。一歩進んで、「神」や「トロール」を登場させてしまうという発想は、ラート独特のものである。彼の作風は、「ほのぼのとした奇想天外」ということが出来るだろうか。

 二〇一七年に発表されたこの作品の原題は「Saufen nur in Zimmerlautstärke」と言う。「部屋の音のレベルで酔ってください」、「他の部屋に迷惑にならないように酔ってください」という意味だ。この言葉、アダムとマグヌスがチェックインしたホテルの経営者、ヘルガ・ポール未亡人によって一回だけ使われる。粋なタイトルだと思うのだが、かなり分かりにくいタイトルなので、二〇一九年に文庫本になった時点で「Halb so wild」(野生の半分)に変えられている。

 読み始めて、そのかなり無理のある展開に、付いて行けないと思うこともあった。しかし、だんだんと全てを許すことができるようになり、結構良い読後感を持つことができた。ラートの「ほのぼのとした奇想天外」に乗せられたというところか。

 

20208月)

 

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