ウォーキング・ツアー、その二

ユダヤ人街の入り口に立つ、フランツ・カフカの像。足元に、ゴキブリのモザイクがある。
僕の子供の頃、この国は「チェコスロヴァキア」と呼ばれていた。そして、共産主義の国だった。今は「チェコ」で、EUのメンバーである。
「チェコとスロヴァキアって、仲が悪いから別れたんですか?」
と、カミルさんに尋ねてみる。ドイツとフランス、日本と中国、隣接している国同士って結構仲が悪いよね。でも、仲が悪けりゃ、一つの国として独立しないだろうし。カミルさんの話によると、チェコ人とスロヴァキア人って、結構仲がいいというか、仲間意識があるという。別れたのは、経済的、政治的な理由が大きいらしい。スロヴァキアは今、EUに参加しながらも、親ロシアの道を歩み、EUの決定にことごとく逆らっている。逆に、チェコはEUの優等生。
旧市街から、旧ユダヤ人街に入っていく。入り口に、何やら奇妙な銅像が立っている。大きな男が、小さな男を肩車して、大きな男の顔の部分が空洞になっている。
「これ、フランツ・カフカの像です。」
とカミルさん。そうそう、チェコの国民的作家、カフカはユダヤ人。ユダヤ人は当時、「ユダヤ人街」、「ゲットー」に住まわされていたのだ。
「カフカの代表作は何ですか?」
ここは、元金沢大学ドイツ文学科の知識をひけらかす場面だ。
「へ〜んし〜ん!(変身)」(お前は「仮面ライダー」か)
「どんな話ですか?」
「ある男が、朝起きたらゴキブリになってる話。」
「じゃあ、そのゴキブリがどこにいるか探してみましょう。」
よく見ると、銅像の足元に、ゴキブリのモザイクがあった。
ユダヤ人街というと、陰鬱な雰囲気を予想するが、今は盛り土され、高級ブランド街になっていた。「ルイ・ヴィトン」、「プラダ」、「グッチ」、「ロレックス」、「ロンシャン」等々、僕とは縁のない高級品の店が軒を連ねている。昔は、モルダウ川が増水するとすぐ水に浸かるので、ユダヤ人を住まわせていたという。しかし、その後、七メートルくらい土を盛って、ゲットーを廃止し、現在の街になったそう。
「今でも、モルダウ川はときどき氾濫します。」
カミルさんは語りだした。
「二〇〇二年、僕が小学生の頃の夏休み。明日からサマーキャンプの予定だったんです。僕はそれに参加するのが嫌で『何とか中止にならないかな』と思っていたんです。そうしたら、その夜から大雨、洪水になりました。別に、僕のせいじゃないですよ。」
モルダウ川は何度も氾濫してきたが、その時の洪水は史上最悪だったという。少し行ったところの建物の壁に横線が引かれており、道路から三メートルくらい上の、一番上の線の横に「二〇〇二」と書かれていた。水位がそこまで上がったとのこと。

建物の壁に刻まれた、洪水の跡。2002年が一番上だ。