幻のボヘミアングラス

歩いた後のビールは美味い。最高!
王宮のある丘を下り、カレル橋に差し掛かったとき、また激しい雨が降り出した。ちょっと疲れていた頃なので、橋の袂にあるレストランに入る。
「ドリンクだけだけどいい?」
「はい、どうぞ。」
と言うことで、ビールを注文する。プラハでビールを注文すると、必ず、
「ライトですか?ダークですか?」
と聞かれる。「ライト」は普通の色のビール。「ダーク」はスタウトビールのような焦げ茶色をしている。今回は「ダーク」を注文。
「美味い!」
あっさりとしていて、素晴らしい喉ごしだった。三時間以上歩いた後なので、特に美味しく感じられる。
レストランの隣が「ボヘミアングラス」の店だった。キラキラと輝く、渋い色合いのカットグラス。妻の土産に買うのもいい。値段はチェコの通貨、コルナで書いてある。メッチャ高そうなので、一番小さいティーグラスを指して、値段を聞く。
「七千コルナです。」
「あの、コルナとポンドのレートっていくらくらいですか?」
二十八で割ればよいとのこと。計算してみると・・・パチパチ・・・二百五十ポンド、日本円で約五万円だった。
「どひゃあ。どえりゃあ高えがや。」
驚くと、何故か名古屋弁になる。とっても手が出ない。と言うことで、妻の土産にボヘミアングラスを買うということは、幻に終わってしまった。言い忘れたが、妻と娘は今日本にいる。今回プラハに来られたのも、一人暮らしの気楽さゆえんということになる。グラスの代わりに妻には、プラハの名所を描いた包み紙のチョコレートセットを買った。
歩き疲れたので、ホテルに戻ることにする。再び旧市街を抜け、三十分くらいかけてホテルの部屋に戻る。シャワーを浴び、テレビを点けてみる。どのチャンネルもチェコ語である。皆目分からない。しかし、ドラマを見て、画像だけで筋を想像するというのも、結構面白い。飛行機に乗っていると、斜め前の人が、映画を見ている。もちろん、ヘッドフォンで聞いているので、音声は聞こえない。僕は、その画像を見ながら、ストーリーを想像するのが好きという、変な人なのだ。
歩き疲れたのと、雨も降っていたので、夕食はホテルのレストランで取った。何と、客は僕一人。「ギリシャ風サラダ」と「ステーキ」を注文。すごく量が多い。昔のドイツみたい。全てが四十年前ドイツみたいだなとつぶやきながら、「孤独のグルメ」の松重豊さんみたいな気分で、一人飯を食った。

怪しい美しさを醸し出すボヘミアングラス。