夜風とワンピース

 

 

「あった!」

ライアンエアというアイルランドの格安航空会社が、ロンドン郊外のスタンステッド空港から一日に二便、ヴロツワフ行きを飛ばしていた。日曜日の午後の便は、夜の八時四十分にスタンステッドを出て、十一時五十分にヴロツワフに着くというもの。

「深夜に知らない土地に着くの、ちょっと不安だな。」

と思ったが、それしかないので仕方がない。ライアンエアは職員の態度が悪いし、よく欠航になったり遅れたりするので、あまり好きではないのだが、先ほども言ったが、それしかないのだから仕方がない。

四月後半の日曜日の午後、妻と娘たちとピクニックをして過ごした。暖かい日で、夕方は雷雨の予報だったが、幸い雨も降らず、誰も居ない草原でのピクニックは楽しかった。四時半ごろに家に戻り、シャワーを浴び、三十分ほど寝てから五時半に車で家を出る。

ライアンエアは、昨年、パイロットに夏休みを取らせるために何百便も欠航させたという悪名高いエアライン。その日の飛行機も、しっかりと遅れた。三十分遅れて搭乗が始まり、全員が乗り終わってから、

「上空が混んでおり、航空管制センターから出発の許可が下りません。」

という理由でまた三十分待たされた。列車やフェリーが一時間遅れると結構「大事件」なのだが、それよりハイテクの粋を集めた飛行機が、シラッとした感じで、当然のように三十分や一時間遅れる。

「飛行機を定時に運航させることって、どうしてそんなに難しいのだろうか。」

と、僕はいつも思ってしまう。話は脱線するが、僕の父は旅行好きだった。僕も父に小さいときから、日本国内の色々な場所に連れて行ってもらった。その、旅行に慣れているはずの父は、乗り物が遅れるととたんに機嫌が悪くなった。

「待たされるのが嫌いなのに、それなのに旅行好き。」

実に不思議な人だった。僕も最近は、出張が多く、二週間に一度くらいの割合で旅の空にいる。旅をしていると、予定通りにいかないことの方が多い。そんなとき、イライラしていたら身が持たない。旅に必要なもの、それは、「忍耐あるいは諦めの心」と「面白い本」だと思う。その日も僕は本を読みながら出発を待った。

先ほども言ったように、ライアンエアは典型的格安航空会社で、搭乗も際も、体育館のような殺風景な建物の中で、立ったまま待たされる。飛行機に乗るときも、飛行機まで歩いて、機内に収容されている梯子のようなタラップを、エッチラオッチラ登っていかねばならない。搭乗の列の僕の数人前に、オレンジ色のワンピースを着た背の高い若い女性がいた。ポーランド人のお姉さん。金髪、三十歳くらいかな。その人が、ワンピースの裾を夜風になびかせながら、タラップを上っていく姿を下から見ているのはよかった。まさに目の保養だった。きょうび、ワンピースなんて着ている若い女性、あまりいないよね。長めのワンピースで、下着が見えるとかそんなことは期待していなかったが(いや、ちょっとくらいはしたかな)、映画のシーンのようで、瞼に焼き付く光景だった。

 

 

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