ノーザン・ガールズ

全員によりフィナーレ、拍手と歓声に包まれる。

 

公演は十一時少し前に終わった。俳優たちはカーテンコールで拍手を浴びているが、オーケストラや舞台装置の人々は表に現れることがない。改めて、

「ご苦労様。」

と言いたい。

楽屋の入り口でスミレと会い三人で夜のダーラムの旧市街を歩いて帰る。金曜日の夜ということで、若者達が通りに出ている。驚いたのは、女の子達の多くが、肩を出したドレスを着て(それもパンツの見えそうな短いのを)、コートも着ないで歩いていることだ。ダウンジャケットにマフラー姿でも、身体の芯まで冷えてくるような夜だというのに。

「ひえー、あの娘たち、寒くないの?」

とスミレに訪ねる・

「『ノーザン・ガールズ』(北国の娘)は寒さを感じないのよ。シャーロットなんて、冬でもパンストを穿かないでミニのワンピースで出かけるもん。」

昨年カレッジの寮でスミレとルームメートだったシャーロットは、今もスミレと一緒の家に住んでいるが、ダーラムの少し南のヨーク出身だ。

 腹が減ったというスミレは途中でチップスを買っている。道々、今日のミュージカルが開演を迎えるまでの話を聞く。今回の「オクラホマ!」は、「DULOG」の主催となっている。「DULOG」とは「Durham University Light Opera Group」つまり「ダーラム大学軽歌劇集団」の略である。この集団の運営は純粋に学生によるもの。つまり、製作、広告、演出、振り付け、音楽、全てを学生達が担当しているという。普通は三年しかいない大学生達が、毎年新しいメンバーを加えながら運営しているわけだが、その規模の大きさと運営の緻密さには感嘆せざるを得ない。

 今日は女性、男性とも十五人ずつ程度の「俳優」が舞台に立った。しかし、「女優」に限るとその十五人の役のオーディションに、百人近い学生が応募してきたという。つまり今日舞台に立った誰もが「選ばれた者」なのだ。道理で皆上手いと思った。子役でロンドンのプロの舞台にも立ったことのあるスミレは、自分に与えられた役に完全に満足していないようだった。

「いくら上手でも、その役に対する雰囲気というものがあるからね。」

と彼女を慰める。

「来年もやる?」

と聞くと、

「もちろん。」

とスミレは言った。 

スミレの家に戻ったのは十一時半ごろ。スミレの部屋で、彼女は床に布団を敷いて眠り、妻と僕はスミレのベッドで寝た。ちょっと狭いが、寒い夜にはこの方が暖かくてよい。

 

オーケストラの皆さん。彼等もオーディションで選ばれたという。