日本からわざわざ?

朝日を浴びた大聖堂が美しい。

 

翌朝六時半に目を覚ます。マユミとスミレはまだ眠っているので、ふたりを起こさないように注意しながら階下へ行き、さあ何をしようかと考える。世話になったお礼に台所の掃除をすることにする。スミレの家の住人は唯一の男性のジョンを除けば皆女性。(可愛いお姉さんたちに囲まれて暮らしているジョンが羨ましいような気がする。)従って台所もそれなりに片付いている。洗い物をして、食器を片付け、調理台の上や電子レンジの中を拭く。

マユミが起きてきたので、また少し散歩をすることにする。今日は珍しく太陽が顔を出している。ダーラムで初めて見る太陽。大聖堂に朝日が当たって美しい。川に沿って、ペニンシュラをぐるりと回る。途中別れ道で、妻とふたりどちらに行こうかと立ち止まっていると、黒いコートの中年の男性が、

「キャナイ・ヘルプ・ユー?」

と話しかけてきた。コートの襟元から白いカラーが見える。彼は聖職者なのだ。道の説明をしてくれた後、彼が尋ねてくる。

「どこから来たの?」

「日本から。」

別に「ロンドンから」と言っても間違いではないのだが、「日本から」と言ったほうが向こうも面白いかと思って。

「観光なの?

「いいえ、娘がダーラム大学のセント・ジョンズ・カレッジで勉強してるんです。その娘が昨夜ガラ劇場の『オクラホマ』に出演したんで、見に来たわけです。」

「そりゃすごい。あんたたちは娘さんのことを誇りに思わなきゃいけないね。」

聖職者のおじさんにそう言われて、マユミと僕は顔を見合わせてにっこりする。彼もセント・ジョンズ・カレッジの出身とのこと。昔は男子学生だけ、女性はいなかったそうだ。

 午前十時にスミレと別れ、ダーラムを発ち、高速道路一号線を南へ向かって走り出す。時々にわか雨に遭いながらも、道は空いており、順調なドライブ。雲の切れ間から、太陽の光が白いシルクにカーテンのように差し込んでいる。

 道中、マユミと昨日の公演の感想を話し合う。数ヶ月であれだけの規模の舞台を作り上げてしまう企画力と実行力にはふたりとも感嘆した。また、学生の俳優が一生懸命にやっている姿は、心を打つものがあった。出演者の中で、おちびのスミレが一番楽しそうにやっていたように思う。しかし、学生の演劇は、ちょっと可哀想な面もある。それは俳優が全て二十歳前後だということ。当然「老け役」も必要なわけで、ピチピチした学生さんに「老け役」を上手に演じろと言っても、やはり無理があると思う。プロはプロ、アマチュアはアマチュアでまた別の良さがあり、単純に比較することはできないと思う。

 来年、スミレは最終学年だが、またやりたいそうだ。彼女が来年もオーディションを通って、私達がまたダーラムまでミュージカルを見にいける機会があることを祈らざるをえない。

 

リハーサル風景。(写真提供、川合スミレ)

 

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