「シンデレラ」

原題:Askungar

ドイツ語題:Aschenputtel

2009)

 

クリスティナ・オールソン

Kristina Ohlsson

 

<はじめに>

 

クリスティナ・オールソンは、一九七九年、スウェーデンのクリスティアンスタッドの生れ、政治学や都市科学を専攻したあと、ストックホルムでのいくつかの省庁で国家公務員として働いた後、最近は欧州安全保障協力機構(OSZE)に勤務しているという結構「堅い職業」の人である。この作品は、二〇〇九に発表された彼女の処女作である。

 

 

<ストーリー>

 

月曜日

男は暗い部屋のベッドに横たわり、天井を眺めている。彼の横には「人形」と呼ばれる女性が眠っている。男は子供の頃、肉親から虐待された記憶があった。彼は病院のカルテを見て、決心した。これで罪の意識を持つことなしに自分の計画を実行できると。彼の人生の新しい局面が始まったことを彼は感じる。

 

火曜日

イェーテボリからストックホルムへ向かう特急列車が、ストックホルムのひとつ前の駅、フレミングスベリで臨時停車する。四歳の女の子を連れて旅をしていた母親が、列車が発車した際、その駅に取り残される。女の子が独りきりでいるという駅からの連絡を受けた車掌のヘンリー・リンドグレンは、車室の中で眠っている女の子を確認する。そのとき、別の車両で若い女性ふたりが喧嘩を始め、それを止めるために車掌はその車両に移る。列車はストックホルム中央駅に到着する。数分後、車掌が戻ると、女の子は消えていた。少女のサンダルが、床に残されていた。

アレックス・レヒトはストックホルム警察で二十五年のキャリアを持つ、ベテラン刑事である。彼はこれまで、色々な難事件を解決し、名声と尊敬を得ていた。ストックホルム中央駅で少女が行方不明になった知らせを受けたアレックスは、若い女性部下、フレドリカ・ベルイマンと一緒に中央駅に駆けつける。そして、駅からの通報を受けて既に到着している警官から、事件の概要を聞く。夏であるが、スウェーデンは毎日雨模様の天気であった。その日も、中央駅の屋根を雨が叩いていた。

フレドリカは、少女の母親サラ・セバスティアンソンから事情を聴く。母親は、フレミングスベリ駅で列車が臨時停車したとき、ボーイフレンドに電話をするためにホームに出た。若い車掌は十分ほど停車すると言っていたし、車室で電話をして、眠っている娘、リリアンを起こしたくなかったからだという。ホームで、犬を助けてくれという若い女性に話しかけられ、ホームの階段を上がったところで列車が発車した。慌てて駅員から列車の車掌に連絡を入れてもらい、タクシーで中央駅に駆けつけたところ、娘の行方不明を知らされたという。涙ながらに話すサラを、フレドリカは慰める。

イェレナは、フレミングスベリから渋滞の中バスに乗る。タクシーに乗るな、電車に乗るな、バスを使えというのが男から指示であった。男の計画は周到に練られ、何度も見直されていた。

刑事のペダー・リュドはアレックスたちから少し遅れて中央駅に着き、そこで車掌と他の乗客から話を聞く。ペダーの質問に対して、年配の車掌であるヘンリーは、少女から眼を離したのはほんの二、三分であったと証言する。また、ティーンエージャーの女の子ふたりが喧嘩を始めたとき、もうひとりの若い車掌アルヴィッドにトランシーバーで連絡を取ろうとしたが出なかったという。若い車掌のアルヴィッドは、臨時停車したフレミングスベリ駅を発車したとき、安全を確認したのは自分であるが、そのときホームには人影がなかった、また、ヘンリーからの連絡を受けられなかったのは、トランシーバーのスイッチを切ったまま、入れ忘れていたからだと証言する。

フレドリカはサラからの事情聴取を終えて署に戻る。フレドリカはバイオリニストになろうとしていたが、十代のときに自動車事故に遭い、腕を負傷しその夢を絶たれた。彼女はその後大学に入り、犯罪心理学を勉強し、警察に入った。しかし、大学卒の彼女は、ペダーを始めとする現場叩き上げの古参警官から、冷たい目で見られていた。フレドリカはサラについて調べる。彼女は夫のガブリエル・セバスティアンソンを何度か家庭内暴力で告発していた。夫は十二歳年上の実業家であった。しかし、彼女が夫の暴力を警察に通報したとき、夫には必ずアリバイがあり、夫はいずれも不起訴になっていた。サラと夫はまだ離婚していないものの、数年前から別居していた。サラは翌日、夫とサラの新しいボーイフレンドと話すことを決心する。

夕方六時、捜査員が署に戻り、アレックスは捜査会議を開く。少女リリアンが行方不明になってから既に四時間が経過していた。警察は、テレビ、ラジオなどのメディアを通じて、少女に関する情報の提供を呼びかけていたが、手掛かりになるような情報は全く入ってこない。唯一の手掛かりは、少女が座っていた車室の中に、サイズ四十六の靴の跡が見つかったことくらいであった。アレックスは、列車が遅れたのも偶然、母親が列車に乗り遅れたのも偶然、偶然を利用した突発的な犯罪ではないかと考える。また、サラの夫がこの件に関与しているのではないかと考える。全てが偶然とは思えないフレドリカは、サラがフレミングスベリで出会ったという「犬を連れた若い女」を追うべきだと主張する。しかし、アレックスはその意見に取り合わない。

イェナは少女の衣服を全て小包に梱包したと思ったが、パンティーだけが忘れられ、床に落ちているのを見つける。彼女は慌ててそれをポリ袋に入れてアパートのゴミ箱に入れる。浴室のバスタブの中には少女が横たわっていた。

ペダーはどうしてもフレドリカが好きになれない。彼はフレドリカが、近い将来自分が警官には不向きであることを悟って、辞めることを考えていた。一方で、彼は、彼女のとのセックスを思い浮かべていた。フレドリカはアパートに戻る。そこには恋人の大学教授、スペンサー・ラーガーグレンがいた。スペンサーは二十一歳上で、妻がいた。彼らは知り合ってもう十年以上経ち、フレドリカはこれまで何度も他の若い男と付き合おうとしたが、結局上手くいかず、スペンサーの下に戻ってきていた。その日の夜、アレックスとフレドリカはもう一度、行方不明になった少女リリアンの母親、サラを訪れていた。道中、フレドリカは何度も、フレミングスベリの「犬を連れた若い女」を追ってみたいというが、アレックスは父親犯行説に固執し、それを承知しない。

 

水曜日

ノラはブラインドを下ろした暗い部屋で目覚める。彼女は、自分が住んでいることが、世間に知れることを極端に恐れていた。テレビをつけると駅で少女が行方不明になったというニュースをやっていた。

「あいつ、ついに始めやがった。」

ノラはそうつぶやき、テレテキストに載っている警察の連絡先を携帯に登録する。

アレックスは目覚め、昨夜の出来事を整理しようとする。彼はフレドリカと一緒に、サラのアパートを訪れ、サラと彼女の新しいボーイフレンドに会ったのだった。アレックスは、夫と、その暴力について何故最初から話さなかったのかとサラに尋ねる。サラは、娘を連れ去ったのは夫でないことは分かっているので、警察の捜査を誤った方向に持って行きたくなかったからだと答える。また、これまで何度も夫の暴力について警察に届けながら、アリバイがあるということで警察は何もしなかったと話す。夫のガブリエルは依然見つからない。ガブリエルは母親には出張と言っており、会社からは休暇を取っていた。アレックスは夫が少女失踪事件に関与していることはほぼ間違えないと考え、夫を見つけることに全力を挙げることにする。

孫の行方不明について連絡を受けたサラの両親は、水曜日の一番の列車で、イェーテボリを発ちストックホルムに向かう。両親はこれまで何度も娘のサラに、イェーテボリに戻るよう説得をしていたが、サラはそれを拒んでいた。サラは目を覚ます。八時半頃、玄関のベルが鳴る。宅配便の配達員が立っていて、サラに小包を渡す。彼女がそれを開けると、中にはリリアンの衣服と毛髪が入っていた。気を失った彼女は間もなく到着した両親に発見され、病院に運ばれる。通報を受けたアレックスはサラの家に駆けつける。小包の中にはリリアンの衣服が入っていたが、パンティーだけが欠けていた。鑑識が到着し、小包の調査を始める。

ペダーは昨夜の妻との会話を思い出していた。捜査のために帰りが遅くなったペダーを妻がなじる。双子の息子を産んでから、うつ病にかかっている妻を、ペダーはこれまで辛抱強く扱っていたが、昨夜はついつい強く当たってしまった。妻は泣き崩れた。昨年からうつ病で塞ぎこんでいる妻に疲れたペダーは、同僚のピア・ノルドと浮気をしていた。しかし、季節が春から夏になるにつれ、快復の兆しを見せる妻を見たペダーは、自分の行いを恥じ、浮気の相手と別れて、妻を大切にしようと思い始めていた。昨日の衝突はそんな矢先のことだった。

フレドリカはガブリエル・セバスティアンソンの母親、テオドラ・セバスティアンソンを訪れる。彼女は、高級住宅街の中でも一団と大きな屋敷に独りで住んでいた。フレドリカはその屋敷とその中の調度に圧倒される。家の中には美術品が溢れていたが、その中でも、テオドラの父が収集したという陶器の人形は異彩を放っていた。母親は、息子を溺愛しており、サラの訴える家庭内暴力は全てサラが別の男から受けたもので、息子は被害者であるという。また、息子は今、出張中であり、連絡が取れないという。フレドリカは、母親が嘘をついている、あるいは大事な事実を隠していることを感じながらもそれ以上の情報を得ることができない。サラの家に届けられた小包は、宅急便の会社の夜間無人窓口から出されたものであることが分かる。

アレックスのチーム捜査官であるエレン・リンドは、十二歳と十四歳の息子と一緒に暮らしていた。夫は別に女を作って家を出て行った。株で利益を得た彼女は、初めて息子を連れてトルコにホリデーに行く。そこで、スウェーデン人の男性、カールと知り合い、ストックホルムに戻ってからも、時々その男と会っていた。エレンがその男の泊まるホテルへ行こうとしていると、警察の捜査本部から回された電話が入る。それは若い女性の声であった。その女性は、少女の誘拐事件の犯人が誰であるか知っているという。犯行は、子供を顧みない母親に復讐し、思い知らせるための行動だという。そして、自分はかつてその男の「人形」であったが、今は別の「人形」がいるという。エレンが名前を尋ねようとすると、その女性は電話を切る。

その日の午後の捜査会議。サラに送られてきた衣服は全てリリアンのものであることが判明する。またガブリエルの靴のサイズが四十五であることが分かる。エレンが若い女性からの奇妙な電話について話すが、エレン自身、それが本当に犯人を知るものからなのか確信できない。アレックスは、電話を追跡することを命じながらも、一番強い線である夫を、引き続き追うことにする。フレドリカは、まだマスコミを通じてほんの僅かな情報しか公表されていない中で、どうして電話の女性が、この犯罪の特殊性を知り、犯人の予想がついたのか不思議に思う。

列車の中でサラとリリアンの向かいの車室におり、母子と話をしたイングリッド・ストランドという老女が警察に出頭する。彼女は、高齢の父親が重病であるとの知らせでストックホルムにやって来たため、連絡が遅れたという。彼女は、列車がストックホルム中央駅に着いたとき、長身の男性がリリアンのいる車室におり、その男がリリアンを抱いて列車を降りるのを見たと証言する。また、リリアンがその男を怖がっていた様子がないので、少女はその男を知っていたのではないかと話す。ペダーの部屋にピアがやってくる。そこへエレンも入ってくる。男女の関係についての感覚の鋭いエレンは、ふたりの間に性的な関係のあることを直感する。

イェレナは次の目的のために車を運転している。彼女は男の「人形」として、完全に男にコントロールされていた。彼女は、出発前に、喋るな、気を抜くな、もう失敗するなと脅されていた。

アレックスは検察官にガブリエル・セバスティアンソンに対する逮捕状を申請し、それは認められ、ガブリエルは指名手配される。フレドリカは、何故イングリッド・ストランドの他にリリアンを連れ去った男を見た乗客がいないのか、何故駅で少女を抱いて歩いている男を見た人間がいないのかを考える。また、若い女性からの電話は、イェンケーピング地区の公衆電話からであった。フレドリカはガブリエルとその地区の関係を見つけることができなかった。

逮捕状が出て、事件が解決に向かって走り出したと思うペダーは上機嫌で署を出る。フレドリカの鼻を開かしたことも、彼を機嫌良くさせる原因のひとつであった。

「犯人は父親で決まり、後は奴を探し出せばよい。」

ペダーはそう考える。ビールを一杯ひっかけるためにバーに寄ったペダーは、そこで同僚たちに会う。その中にピア・ノルドもいた。事件の解決の気配に気を緩めたペダーは杯を重ね、酔った彼はピアのアパートへ行き、そこで彼女と寝る。

テオドラ・セバスティアンソンは、実は息子のガブリエルを自宅にかくまっていた。これまで、ガブリエルが家庭内暴力で告訴されたときも、金にものを言わせてアリバイ工作をしていたのも彼女であった。

ノラは旅に出る準備をしている。祖母の家に隠れるつもりであった。しかし、アパートを出る直前に男が現れ、彼女を殴り倒す。

 

木曜日

スウェーデン北部のウメアの町。メルカー・ホルム医師は救急病院の夜勤をしていた。看護婦のひとりが、

「赤ん坊の生まれそうな女性がここへ向かっている。」

と告げる。その女性から電話があったという。なかなか現れない女性の様子を見るために駐車場に行った看護婦は、そこで少女の死体を発見する。少女は裸で、髪の毛を剃られており、道路に仰向けに寝かされていた。そして、その少女の頬には、「望まれない者」という文字が書かれていた。

早朝、アレックスはウメアの警察から少女の死体が発見された旨の連絡を受ける。彼は、自分は飛行機で直ぐにウメアに向かうことにして、死体発見のサラとその両親への連絡をペダーに依頼する。フレデリカは、ガブリエルの同僚から、ガブリエルのパソコンの中に、何か重大なものが発見されたという連絡を受ける。彼女はその調査をペダーに依頼する。連絡を受けたペダーはピアのアパートに泊まっていた。ひどい二日酔いであった彼は、妻、誘拐された少女、同僚に対する自責の念にかられながらも、サラの家に向かう。フレドリカは、フレミングスベリ駅の犬を連れた若い女性のことを調べる決意をして駅に向かう。

ペダーはサラの家に行き、彼女の両親に、死体が発見された旨を伝える。ウメアの警察の調べによると、リリアンは、殺されてから一日以上の時が経っている、つまり、少女は、駅から連れ去られて後に直ぐに殺されていたのだった。ペダーは次にガブリエルの会社を訪れ、通報してきた同僚に会う。同僚がガブリエルのコンピューターの中を見せる。そこには幼い子供たちのポルノ写真が入っていた。

アレックスはウメオに着き、当地の警察のフゴ・パウルソンに話を聞く。少女は証拠を残さないように、爪が短く切られ、身体中がアルコールで洗浄されていた。サラと両親は、次の飛行機で、死体の身元確認のためにウメオに向かっている。

フレドリカはフレミングスベリ駅に着く。そこで、「犬を連れた若い女」を覚えている駅員に会い、サラの乗った列車の遅れの原因になった信号の不良は、何者かによるサボタージュであったことを知る。フレドリカが署に戻ると、アレックスの不在中、捜査班の指揮を任されたペダーが、ガブリエルの母親の家に対する家宅捜査令状を作成中であった。少女が死体で発見されたのに、上機嫌のペダーにフレドリカはついていけない。エレンとマッツは、ガブリエルの携帯の位置の特定に努め、前回は母親の家の付近で使用されたことが分かる。フレドリカはテオドラの屋敷を再び訪れる。彼女の後に、令状を持った捜査班が入り、捜査が始まる。しかし、邸内でガブリエルは発見されなかった。しかし、昨夜彼が部屋で寝た形跡があった。フレドリカは、会社のラップトップを与えられているガブリエルが何故見つかったらまずい写真を会社のデスクトップに入れていたのか疑問に思う。また、ガブリエルが昨夜母親の家にいたとすれば、ウメオに行くことはできなかったことも知る。

イェレナは自分の役割を忠実に果たしたと満足してストックホルムに戻る。しかし、男は、リリアンの死体を予定の場所に予定の姿勢で置かなかったことでイェレナを責める。男は彼女を殴り倒し、マッチの火で彼女の肌を焼く。

アレックスは身元確認を終えたサラに、彼女とウメオの関係について尋ねる。サラは、高校を卒業してから大学が始まるまで、「文芸クラブ」のセミナーでこの町に来たことがあり、その際二、三ヶ月この町に滞在しアルバイトをしていたことはあることは認める。しかし、それ以外はウメオとは関係がないと答える。フレドリカはサラの友人たちの話を聴く。サラのことを悪く言う友人はいないが、その友人たちは全て、サラがガブリエルと結婚してからの友人で、それ以前の子供時代の友人がひとりもいないことに気付く。サラはあるときを境に、それまでの全ての友人たちと縁を切っていたのだった。署に帰ったフレドリカに、ペダーが、ガブリエルのコンピューターから見つかったメールの遣り取りを持ってくる。それは「大伯父」と名乗る人物との間に交換されたメールで、「ワインの品評会」という表題になっていた。しかし、そこの登場するワインや年代が、子供の性別や年齢を表すものであることは明らかであった。ガブリエルは児童ポルノを所持していただけではなく、子供を性的に虐待するネットワークの一員であったのである。リリアンが誘拐された火曜日の夜、ガブリエルは「大伯父」に誘われてストックホルムから車で五時間かかるカルマーで「ワインの品評会」に参加し、そこから携帯電話をかけていた。

アレックスがウメオから署に戻り、フレドリカとペダーが彼の元に集まる。ペダーとフレドリカは、リリアンの誘拐殺人事件と、ガブリエルの関与する児童ポルノ組織とは、別物と考えるべきではないかという意見を述べ、アレックスもその意見に傾く。当時カルマーにいたと考えられるガブリエルは、ストックホルムの駅に現れることは不可能であるからである。フレドリカは、フレミングスベリ駅を訪れ、駅員に会い、「犬を連れた若い女」のモンタージュ写真を作成していることを話す。また、サラに結婚する前からの友人がいないことを不審に思ったフレドリカは、もう少しサラの身辺を洗ってみたいと言う。ここへ来て、初めてフレドリカの意見が採用される。

エレンは、仕事の後、ホテルでカールと会う。セックスをしながら、カールは、

「俺の欲しいものをお前は何でも与えてくれる。」

と言う。

 

金曜日

全身に怪我と火傷を負ったイェレナは、助けを求めるために何とか玄関に辿り着き、ドアを開けるが、そこで気を失う。

金曜日の朝、アレックスは、フレドリカを、サラが高校を卒業した後「文芸クラブ」のセミナーに一緒にウメオに行った女性、サラの元友人マリア・ブロムグレンから話を聞くため、マリアの住むウプサラに送る。検視医に電話をしたアレックスは、リリアンは大量のインシュリンを注射されショック死したこと、犯人が病院で使用されているゴム手袋と消毒用のアルコールを使ったこと、リリアンの身体に残されている手の跡から、犯人は男女の二人組であることを知る。

フレドリカはウプサラに住むマリア・ブロムグレンを訪れる。マリアとサラは、イェーテボリで高校時代親友であった。マリアによると、当時サラの両親は仲が悪く、離婚寸前で、それに嫌気をさしたティーンエージャーのサラは、酒を飲み男と付き合うようになったという。両親はまた元の鞘に戻ったが、今度は厳しい戒律を持つキリスト教団に属するようになり、サラにも厳しい規律を求めるようになった。それに反発したサラは、更に酒とセックスに溺れるようになった。高校を卒業した年の夏休み、マリアとサラはウメオに「文芸クラブ」の夏季セミナーに出かけた。予定の一週間が済んだ後、サラは、

「働き口が見つかったから、ここに残る。」

と突然言い出し、マリアはひとりでイェーテボリに戻ったという。

ペダーは、警察の別の部署から電話を受ける。ノラという若い女性が、イェーケーピングという地区のアパートで絞殺されているのが発見された。彼女が訪ねることになっていた祖母が、孫が現れないので、警察に訪問を要請したのだという。ペダーに電話が回ってきたのは、殺されたノラの携帯に、少女誘拐事件捜査本部の電話番号が登録されていたこと、また、部屋にリリアンのいた車室にあったのと同じ、サイズ四十六のエコシューズの足跡が見つかったからであった。

署に戻ったフレドリカは、アレックスとペダーに、サラの友人のマリアの話を伝える。サラに、ウメオで何かがあったことは、これではっきりとした。またフレドリカは、公衆電話からエレンに電話をした女性が、イェーケーピングから架けていたことから、殺されたノラがその電話を架けたと推理する。フレドリカは「文芸クラブ」の主催者と、ノラの祖母に会いにウメオへ向かう。また、「犬を連れた若い女」のモンタージュ写真を見たレンタカー屋が、よく似た女性に数日前に来たという連絡を入れてくる。ペダーはレンタカー屋に向かう。レンタカー屋の従業員は、七月の始めに訪れてきた若い女性を覚えていた。彼女は車を借りに来たのではなく、自動車学校の申し込みに来たのだった。その女性は、結局自動車学校の申し込みをしなかった。従業員は彼女が顔に青痣を作り、非常に怯えた様子だったと話す。ペダーはそのことをアレックスに報告し、アレックスは引き続き、辺りの自動車学校を当たるようにペダーに指示する。ペダーにはひとつ大きな疑問があった。もしイェーケーピングの若い女性、ノラの殺人が、犯人による口止めだとすると、犯人は彼女が警察に電話をしたことを知っていたことになる。しかし、電話の件は、一切公表されていない。どうして、犯人はノラが警察に電話をしたことを、知り得たのかということであった。

フレドリカはウメオに発つ前に、もう一度サラを訪れて、彼女がウメオで夏を過ごすことになった、事情を聴く。友人のマリアは、サラがイェーテボリを発つ前から、ウメオに長く滞在することを知っていたと証言したが、サラはそれを否定し、マリアが嘘をついているという。フレドリカはサラと両親が、その前後の事情を隠そうとしているという印象を強める。

「犬を連れた若い女性」のモンタージュ写真を見て、それが昔の里子ではないかと通報してきた女性に会うため、ペダーは彼女の住むニュケーピングへ向かう。アレックスはノラからの電話の内容を吟味する。

「男は、子供を粗末に扱う女性たちに復讐しようとしている。」

とその電話の主は述べていた。「女性たち」つまり、対象は複数であることにアレックスは気付く。サラとリリアンの他に、別の犠牲者が出ることをアレックスは懸念する。

マグダレナ・グレゲルスドッターは、養女で赤ん坊のナタリーをベランダの乳母車の中に寝かせ、台所にいた。彼女は数年前、自分が子供を産めない身体であることを知り、ボリビアから赤ん坊を養子に取って育てていた。物音に気付いて彼女がベランダに出てみると、乳母車の中から赤ん坊、ナタリーが消えていた。

ペダーは幾つかの自動車学校を訪れ、「犬を連れた若い女」が、何軒かの学校を訪れていたことを知る。しかし、彼女はどこにも申し込んではいなかった。次にペダーはニュケーピングに向かい、そこで警察に通報してきたビルギッタ・フランケに会う。彼女は、モンタージュ写真の女性が、自分が里子として世話したモニカ・サンダーに違いないという。顔が似ているばかりでなく、彼女が身に着けていたネックレスが、自分の与えたものと酷似しているというのが理由であった。ビルギッタによると、モニカは精神的にひどく傷ついた状態で、十三歳のときビルギッタの家にやって来たという、モニカはバルト海岸のある国で生まれたものの、そこから養女に出され、スウェーデンにやってきた。しかし、養母は夫を亡くした後、酒とドラッグに溺れ、彼女の世話をしなくなってしまった。福祉事務所に保護されたモニカは、その後、幾つかの里親や施設を転々とするが、その間、盗みなどで警察の厄介になったことも度々あった。モニカはビルギッタの元に二年間住んだが、その後家を出て行方不明になっていた。ペダーはモニカが、実母と養母に二度捨てられていることに気付く。ペダーはモニカに関する書類を借り受ける。

ウメオの空港に降りた、フレドリカに、アレックスから新たな子供の誘拐が伝えられる。赤ん坊のいなくなった直ぐ傍に箱が置いてあり、そこに赤ん坊の毛髪と衣服が入っていたという。フレドリカは、今回犯人が全てを急いでいると感じる。ペダーは、ビルギッタに会った帰り道、サラが高校時代付き合っており、別れたあと嫌がらせをしたという、前科のある男を訪ねる。しかし、ペダーの目からは、その男が周到に計画された犯罪をするような人間には思えなかった。ペダーは事件を振り返り、結局、フレドリカが言っていた、

「犯人は父親ではない、別にいる。」

という考えは正しく、自分が、父親犯人説の固執する余り、無駄な時間を使ってしまったことを後悔し始める。

その頃、ストックホルムのカロリンスカ病院に、全身に怪我と火傷を負った若い女性が運び込まれる。アパートの入り口を開け、半分身体を廊下に出す形で倒れている彼女を隣人が見つけ、救急車を呼んだのであった。

 

土曜日

ウメオのホテルに着いたフレドリカは夕食後バーでワインを飲んでいた。彼女は、養子縁組について、その斡旋事務所から連絡があったことを考えていた。そこへスペンサーが現れる。彼はフレドリカを追ってきたのだった。ふたりはホテルで夜を過ごす。翌朝、フレドリカは、かつてサラとマリアが参加した「文芸クラブ」のリーダーのマグヌス・ゼーダーを訪ねる。マグヌスは当時の資料をまだ保管しており、サラについても覚えていた。サラがウメオに来る前に、夏の間の仕事に応募していたこと、サラがある日だけはセミナーに出られないと言い出し、その夜、外出したサラが病人のような様子で戻ってきたことをマグヌスは話す。

署に出勤したアレックスは、誤った判断で時間を無駄に過ごし、対応が後手後手に回っていることに対して、自らに怒りを覚える。彼には、サラが何故警察に嘘をついているのか理解できない。ペダーは前夜、妻のイルヴァに、

「もうこの生活は続けられない。」

と宣言し、それによってかえってサバサバした気持ちになっていた。モニカ・サンダーの写真が新聞に載り、市民に彼女に関する情報の提供が呼びかけられた。ペダーは、モニカがひょっとしたら、養女になる前の名前を名乗っているのではないかと思いつく。

ストックホルム郊外のブロマー、天候の快復を待って、インゲボルグとヨハネスの老夫婦が庭仕事をしていた。彼らは数年前にこの家を手に入れたのだった。飲み物を取りに行くために、屋内に戻ったインゲボルクは、誰かが家に侵入した気配を感じる。彼女が浴室のドアを開けると、赤ん坊の死体が床に胎児の姿勢で置いてあった。

ウメオでノラの祖母、マルガレタ・アンダーソンを訪れたフレドリカはアレックスからの電話で、赤ん坊の死体発見のニュースを聞く。顔にはリリアンのときと同じように、「望まれない者」という文字が書かれていたという。マルガレタの話によると、ノラは母親に捨てられ、里親の元を転々としていたという。六年前にある男に会い、その男と付き合うようになる。男は、自分は医者であると名乗っていた。最初は親切で頼りになると思われた男だが、次第に彼女に暴行を加えるようになり、最後はマッチの火で焼かれるなど、ひどい扱いを受けた。ノラは、その男から逃れるために、名前を変え、潜伏生活を送った。しかし、男の名前も、住所も、職業も知らず、男を訴えることを出来なかったという。

殺された赤ん坊、ナタリーの発見された家は、母親が生まれ育った家だということが分かる。赤ん坊は、リリアンのときと同じように、大量のインシュリンを注射されてショック死していた。また、モニカが養女になる前の名前が「イェレナ・スコルツ」であることも分かる。ペダーは、犯人像の分析を専門とする「プロファイラー」に会いに大学に向かう。エレンの元に、カロリンスカ病院から、モニカ・ザンダーと思われる女性が収容されている旨の連絡が入る。

アレックスとペダーは病院に向かい、モニカ、つまりイェレナ・スコルツとその主治医に会う。彼女は全身に打撲、骨折、火傷を負い、僅かに口を開ける状態であった。ペダーの質問に対して、イェレナは、自分に暴行した男の名前も住所も知らず、自分のアパートだけで会っていたこと、また、

「子供を愛することのできない母親に復讐する。」

とその男が言っていたことを告げる。

 ペダーが大学から呼んできた「プロファイラー」、ローランド教授を含めた捜査会議が行われる。プロファイラーは、第二の誘拐殺人が急いで行われたのは、犯人が第一の殺人の結果に満足せず、つまり彼のメッセージが伝わっていないと考え、それを「訂正」するために第二の殺人を急いで行う必要があったのではないかと分析する。また、協力者として犯人は最初ノラを選んだが、彼女は精神的な後ろ盾として賢明な祖母がいて、それが犯人にとっては計算外であった。それで、天涯孤独なイェレナを選んだのでないかと分析する。いずれにせよ、殺人の対象の選択は、母親を通じて行われていることを、プロファイラーは示唆する。犯人がどのようにして、被害者の母親たちの過去を知り得たかが事件を解決する鍵となってくる。

 フレドリカは、ウメオ総合病院の女医から電話を受ける。一九八九年七月二十九日に、その女性が病院を訪れた記録が残っているという。それはサラ・セバスティアンソンであった。その後直ぐに、フレドリカはサラを訪れる。サラは、自分がその日に、中絶手術をしたことを認める。しかし、自分が中絶手術を受けたことは、両親にも、友人にも、誰一人として話していないと断言する。

 検視医はアレックスに、赤ん坊ナタリーも、頭部へのインシュリンの注射で殺されたことを告げる。ペダーは、女性に対する暴行で、過去に服役し、最近釈放された男のリストを作り、絞り込みを始める。イェレナの家の家宅捜索が行われ、そこでリリアンの毛髪が発見され、リリアンがイェレナのアパートで殺害されたことが明らかになる。

 

最後の日

 フレドリカは、殺された赤ん坊の母親、マグダレナ・グレゲルスドッターを訪れる。マグダレナは、十年以上前に妊娠した際、かつて両親の家の浴室で、自らの手で胎児を殺そうとしたことを認める。結局その企ては失敗し、赤ん坊が産まれるが、死産に終わったという。これで、犯人がかつて中絶をした女性に対して、その中絶をした場所に殺して子供を置くということで、制裁を加えようとしていることがはっきりした。しかし、犯人はいかにして、その過去に事実を知り得たのであろうか・・・

 

<感想など>

 

五百ページ近い大作である。何故こんなに長くなるかというと、その答えは只ひとつ。登場人物の過去、背景、心理が、実に詳細に描かれているからである。

例えばフレドリカ・ベルイマン。音楽家である母親の影響でバイオリニストを目指した子供時代。自動車事故で腕を負傷し、その夢を絶たれ、大学で犯罪心理学を専攻することになった経緯。そのときの周囲の反応。二十一歳で二十一歳年長の妻のある大学教授スペンサーと知り合った背景。その後、十年間の彼との関係。養子を取ることを考えていること。それらが、実に細かく書かれている。その詳細な記述が、フレドリカだけではなく、アレックス、ペダー、エレン等の同僚、その他の登場人物についても繰り返されている。それなりにその人物の人となりが良く分かって、その分登場人物が現実味を帯び、登場人物に対し親近感が湧き、その行動の必然性がよく理解できるのは大変良いことなのだが・・・欠点は、本が読むのがためらわれるほど厚くて長くなることである。

一応、アレックス・レヒトは一流の捜査官、ストックホルム警察の花形であると自他共に認めているという設定で登場し、今回も捜査班を率いている。しかし、少なくとも前半の展開からすると、どうしてこのような人物がこれまで成功を収めてきたのかという疑問を抱く。

「腹の中に湧き上がる感情、つまり『直感』こそが捜査官にとって一番大事である。」いうのが、彼の信条だが、それは逆に言うと「先入観」なのである。彼は、

「少女の父親こそが犯人である。」

という先入観に囚われて捜査を進める。そして誤った方向に走ってしまう。

「このような人物がどうしてこれまで成功を収めて来られたのだろうか。」

と考え、設定に疑問を感じるのは、私だけであろうか。

 何と言って面白かったのは、一見偶然出来事の連続の中で、その偶然を利用して行われたように見える犯罪が、実は周到に計画に基づいたものであったことがだんだんと分かって来るという展開である。何が偶然で何が計画された物なのか、誰がその協力者であり、どのような役割を演じているのかということを推理するのは面白かった。また、都会の中で、人々が他人に構わないで、いやそれ以上に、他人を無視して生活している。列車の車室から、少女が誰かに連れ去られても、目撃者がいない。そんな「都会の死角」というものを、犯人が巧みに突いており、それを巧みに取り入れているのも興味深い。

 また、登場人物が、それぞれ「悩みを抱えた人物」であるのも良い。アレックス、ペダー、フレドリカ、エレンという捜査チームのメンバーの、プライベートの生活も、赤裸々に描かれる。ペダーはうつ病の妻との関係に悩み、同僚の女性警察官と関係を持ってしまう。フレドリカは、妻子ある大学教授との関係を清算したいと思っている。この辺り、「悩める人物」がそれぞれの重荷を背負いながら事件と取り組むという、スウェーデン警察小説の伝統を受け継いでいる。先にも述べたが、それ故に、この小説を長い物にしているのだが。しかし、登場人物が、ステレオタイプでなく、「生きた人間」として描かれる手法は素晴らしい。

 ペダーに代表される現場叩き上げのスタッフと、フレドリカの代表される大学出のスタッフの間の対立が描かれる。アレックスも、最初はペダー寄りで、フレドリカの能力を見くびっている。ともかく、その対立が、両者の「心の襞」として描かれるのがよい。フレドリカと話した後、ペダーが彼女を犯すことを考えたり、また、フレドリカが独りでアサインされるときは、アレックスがいつも何か特別な理由を述べたり・・・そのキメ細かい描写には脱帽する。

 さて、「シンデレラ」というタイトルだが、犯人の協力者であるふたりの若い女性、精神的にも、経済的にもひどい生活をしていたノラとイェレナが、若いハンサムな男性に出会い、彼と関係を持ち、王子に見出だされたシンデレラのように感じた、という記述がある。まずそこから来ているのは明確である。最後にもう一回、「シンデレラ」が言及される個所があるのだが、それを書くと、犯人が分かってしまうので、ここでは控えておく。

夏のスウェーデンを舞台にしている。雨ばかり、なかなか日光浴の出来る天気にならなくて、皆のフラストレーションが溜まっている時期という設定。北欧の夏が舞台になると、極端に暑い、極端に天気が悪いという設定が多いのに気付く。  

 この小説、スウェーデンで長らく外務省の公務員として働いていたクリスティナ・オールソンの処女作だとのこと。かなり長い小説だが、その必然も理解でき、それに耐えれば、非常に楽しめる作品であると思う。今年読んだ犯罪小説のベストワンとしたい作品である。

 

20161月)