たんたんたぬきの 

素晴らしい景色の中も、三時間運転するとさすがに飽きてくる。お友達が欲しい。

 

二月十九日、午前五時半、僕は世話になったSさんとKさんに礼を言い、車でネルソン空港へと向かった。

ニュージーランドでは、四週間レンタカーを借りていた。僕のいた場所では、車がないと全くどこへも行けない。ちょっとした買い物にも、十キロ以上離れたモトゥエカの街まで行かねばならない。滞在中二回旅に出たが、ニュージーランドでは鉄道がない。長距離バスは走っているらしいが。ともかく、車がないと行けない場所がいっぱいある。旅行中は、一日三百キロ以上運転した。いくら良い景色の中を運転していると言っても、独りで運転しているとそのうち飽きてくる。よくヒッチハイカーを拾っていたが、独りのときは、オーディオブックやラジオを聴いていた。

ラジオはいつも「FM1」というクラシックの局をつけていた。ナギサを送った朝、この局から、無伴奏の混声合唱であるメロディーが流れてきた。馴染みのあるメロディー。

「これ『たんたんたぬきの金〇は』の歌や。」

あの曲、実は、由緒あるクラシック音楽が起源であったのだ。それから、ニュージーランドで運転しているとき、何故かいつも、このメロディーを口ずさんでいた。「たんたんたぬきの」は何時しか、ニュージーランドでの僕のテーマ音楽となった。

六時過ぎにネルソン空港到着、レンタカーを返し、自分の乗る七時半発、クライストチャーチ行の飛行機を捜す。

「あれれ、僕の乗る飛行機がないぞ。」

何と、予約していたニュージーランド航空の飛行機は「午後」七時半のものだった。よく見ると予約確認のメールに小さく「PM」と書いてある。

「ええっ、こんなんあり?」

これまで住んでいた国ではどこでも、交通機関の時刻は、二十四時間制で表していた。ニュージーランドはそうじゃないなんて。さすがにこのときはかなりパニクった。慌ててエア・ニュージーランドの窓口に行き、予約を変更してもらう。幸いにして六時五十分のクライストチャーチ行きの便に空席があり、それに乗れた。もしも乗れなかったら、午後十一時クライストチャーチ発のシンガポール航空の飛行機に乗れず、その切符は変更が効かないものなので、大変なことになるところだった。

無事、クライストチャーチからシンガポールへ向かう。

「何故ニュージーランドへ来たの?」

と、滞在中何人かに聞かれた。しかし、僕がどうしてニュージーランドを旅の目的地に選んだのか、自分でも分からないことが多かった。それほど考えて決めたわけでもなかった。しかし、来て良かった、と言うより、正しい時に、正しい場所に来たという気がする。何かに導かれて来たような気がする。それが「神」なのか「潜在意識」なのか何なのかは分からない。とにかく、ここへ来たのは偶然ではなく必然であったような気がする。

 

国道で、百キロメートルくらい、ガソリンスタンドがないのは、ごくごく当たり前。

 

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