バイバイ、パパママ

 

ニューポートで、メス犬に好かれてしまったマユミ。

 

ニューポートの岸壁では、数人の親爺が、暇そうに魚釣りをしている。ひとりの親爺の連れてきた犬がマユミにまとわりついてクンクンと匂いを嗅いでいる。

「メス犬なのにどうして女性に?」

と思う。そうだ、うちにはコーディというオス犬がいて、彼の匂いがマユミの服に染み付いているからなのだ。

 午前十一時半、クリスティーナの運転でペンションを後にする。「パパとママ」の部屋へ行き、ふたりとハグをする。

「バイバイ、ママ。バイバイ、パパ。」

と言って別れる。妻は数軒隣の売店のお姉さんとも別れを惜しんでいる。

車の中で、

「あなたたちが居るのが『当然』みたいになってたので、いなくなると寂しいわ。」

とクリスティーナが言った。彼女は妹さんが英国のサリーに住んでいるので、ちょいちょい英国には来るとのこと。また会えるかも知れない。

「今回、宿を選んだのはマユミだったんだけど、良い宿を選んでくれたって、感謝してるよ。」

と僕はクリスティーナと妻に言った。これはお世辞でも、外交辞令でもなく、正直な気持ちからだった。

休暇が終わるのは少し寂しい。しかし、ロンドンでもやりたい事が、いやロンドンでないとやれないことが、いっぱいある。それをまたやり始めるのが楽しみでもある。

 空港の玄関でクリスティーナとハグとキスをして別れる。チェックインを済ませる。まだまだ時間があるので、玄関の外にあるベンチに寝転がり、ミコノス島最後の日光浴をする。天気は回復し、強い正午の太陽が照りつけている。太陽を顔に浴びながら目を閉じる。目の前が朱色になる。僕は今回の休暇を振り返った。

食べ物に関しては最高の旅だった。何せ刺身を三回も食ったし、「伯父さんのタヴェルナ」の料理も美味しく、安かった。刺身が食いたくなったら、またミコノス島へ来てみたい。そして、その時はまた「ママズ・ペンション」に泊まろうと思う。家族的な良い宿だった。今回醤油は持参したが、ワサビは持ってこなかった。しかし、レモンとライムが刺身には結構よく合って、それなりに楽しめた。でも、次回はワサビも忘れずに。

 天候は二度ほど雨に遭うなど少し不順だったが、暑くもなく、寒くもなく、過ごしやすい気温だった。真夏のカンカン照りで三十度以上の気温の中では、あれほど動き回れなかっただろう。しかし、我ながらよく歩いたものだと感心する。毎日最低十キロは歩いていた。しかも、山道坂道ばかり。バランス感覚が養われ、足の筋肉も鍛えられたようだ。この勢いで、ロンドンに戻っても毎日頑張って歩こうと思う。今年は体調も良くなってきたので、ピアノの先生の「山好き」ヴァレンティンと一度トレッキングもしてみたいし。

 

ロンドンでもまた楽しいことがあるさ、と思いながらロンドン行きの飛行機に乗り込む。

 

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