サイゴン陥落

 

サイゴンは陥落し、ホーチミンの率いる北側の軍隊に占領される。

 

ナイトクラブ「ドリームランド」のオーナーが「エンジニア」という男であった。このエンジニアが、この物語の狂言回しというか、進行役を担当する。エンジニアと言っても、彼が車や機械の修理が得意なわけでない。エンジニアには「巧みに事を処理する人、敏腕家」と言う意味がある。彼は、時代の趨勢を巧みに利用して、したたかに生き抜いてきた男なのである。野心的、上昇志向と言えば聞こえがよいが、金のためには何でもやってしまう男。ジョン・ジョン・ブライオンズという名のフィリピン出身の俳優さんがやっているのだが、アクの強い役。日本公演では市村正親がやっていたといえば、大体イメージを浮かべていただけると思う。

アメリカ兵のクリスは同僚のジョンに誘われてこのナイトクラブを訪れる。当時、アメリカの兵士たちは、自分たちが敗れ、まもなくベトナムから撤退することを察していた。実際、一九七三年のパリ協定でベトナムの停戦が決定され、一九七五年四月に、アメリカ軍はベトナムから全面撤退している。クリスはキムに一目ぼれする。彼は、大金を払って処女のキムを買おうとした男と張りあいキムと寝る権利を得る。クリスはその金をキムに渡そうとするが、彼女は金を受け取ることを拒否する。ふたりはキムの部屋に上がっていき、その夜結ばれる。よりにもよって、撤退が迫っている今、ベトナム人の女性を好きになってしまったことを、クリスは嘆く。

数日後、ふたりはキムのナイトクラブの同僚たちに見守られてささやかな結婚式を挙げる。その結婚式の途中、ふたりのベトナム人の男が銃を持って乱入する。ひとりはキムの両親が許婚として決めたタイであった。タイは自分と結婚するようにキムに迫るが、キムはそれを拒否する。タイはピストルを抜いて、キムを脅す。クリスも銃を抜いてタイに向かう。タイは諦めてその場を去る。

サイゴンの陥落が目前に迫る。自分が間もなくこの土地を去らねばならないことを知っているクリスは、キムを米国に連れて帰れるように奔走する。米国大使館には、アメリカへの出国ビザを求めるベトナム人でごった返していた。

三年後の一九七八年、サイゴン解放の三周年を祝うパレードが行われていた。キムはホーチミン・シティーと名を変えたサイゴンでクリスを待っていた。一方、アメリカのアトランタでは、クリスが妻エレンと暮らしていた。夜、眠っているクリスはベトナム時代の悪夢にうなされる。クリスのアメリカ人妻、エレンが始めて登場するのだが、長身、金髪で、声もキム役の優しい声とは対照的にちょっと金属的な澄んだ声である。何もかもがキムとは対照的に描かれている。

キムの許婚のタイは、ベトナム軍の高官になっていた。彼はアメリカの協力者であったエンジニアと捕らえ、彼を収容所に送ろうとするが、エンジニアはキムの居所を教えるということと交換に、それを免れる。エンジニアはタイをキムの住む場所に案内する。再び結婚を迫るタイに、キムは三歳になる男の子を見せる。それはクリスとキムの息子であった。逆上したタイは息子を殺そうとするが、キムは一瞬早くクリスの残したピストルでタイを射殺する。エンジニアはキムにタイのバンコクへ逃げることを提案する。アメリカ人の子供を連れていると、比較的出国が楽だと言う。キム、エンジニア・息子の三人は、タイへ向かう船に乗る。

ここで第一部が終わり、中入りになる。ここまで、一時間半ほどの長さであったが、その長さを感じさせない内容であった。

 

キムが死んだと思ったクリスは、米国で結婚していた。彼はベトナム時代のトラウマに悩む。

 

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