キムは生きている

 

泣き叫ぶベトナム人を残して、米軍のヘリコプターは飛び立つ。

 

前半は、一時間半ほどの長さであったが、時間を感じさせない内容であった。前半の途中から、ベトナム全土が共産主義政権に支配されることになる。その様子が、ベトナムの兵士の行進や、ホーチミンの大きな肖像で、象徴的に表されていた。

この物語、キムとクリスのラブストーリーで、エンジニアが進行役なのだが、キムとエンジニアの個性に食われてしまって、主役のひとりなのであるが、クリスの影が薄い。役と同じ名前のクリス・ペルソというアメリカ人の男優が演じており、なかなかハンサムで体つきも良いお兄さんなのだが、美男美女というのはかえって印象が薄いものだ。

舞台のセットが凝っていることに驚かされる。おそらくこれまで見たミュージカルの中で、一番の凝りようだと思う。キムの住むスラムを下に出しながら、アトランタのアパートで夜を過ごすクリスとエレンを上に配置するといった、立体的なセットには、本当に感心してしまった。しかし、後半、もっと驚くようなセットが待ち構えているのである。

アンサンブルの俳優さんたちは、ある時はアメリカ兵になったり、またある時はベトナム兵になったり大変だろうと思う。アメリカ兵は、例によってカジュアルな感じで動かなければならないし、ベトナム兵ともなると、キビキビ動かなくてはいけないし。気持ちの切り替えが大変なのではないかと要らぬ心配をしてしまう。

休み時間に外に出る。末娘のボーイフレンドは、風邪を引いて寒気がするといいながらハーゲンダッツのアイスクリームを食べている。確かに、ミュージカルといえばアイスクリーム、映画といえばポップコーンが付き物。

後半はアトランタでの戦災孤児を救うチャリティー団体の集まりから始まる。クリスをナイトクラブに連れて行った同僚のジョンが、この団体の世話人らしく、戦争孤児のビデオを見せながら演説をする。このビデオはおそらく本当の孤児を写したものだと思う。このジョン役の俳優さん、ヒュー・メイナードが、この劇に出演する唯一の黒人である。役柄から言って、どうしても黒人でなくてはならないという必然性はないのだが、人種的なバランスというものがあるのであろう。

さてジョンは、戦争孤児の行方を追跡している間に、キムが生きていて、バンコクでクリスの息子を育てていることを知る。ジョンはそれをクリスに伝える。クリスは妻のエレンを連れて、バンコクに行く決意をする。

またまた「ネオン・チカチカ」のナイトクラブの場面である。今回はバンコク。オーナーはもちろんエンジニア、懲りない人である。お姉さんたちはベトナムもタイもそれほど変わらないが、客層はアメリカ兵ではなく観光客。ここへジョンが現れる。キムはこのナイトクラブでダンサーとして働いていた。ジョンは、キムにクリスもバンコクに来ていることを告げる。しかし、さすがのジョンも、キムに与えるショックを考えると、クリスが結婚し、妻と一緒に来ていることを、言うことが出来なかった。

バンコクに来てからキムはふたつの悪夢に悩まされていた。ひとつは自分が殺したタイの亡霊である。そして、もうひとつはクリスとの別れであった。ここからはキムの回想シーンとなる。クリスは、キムのために出国ビザを用意する。キムはそのビザを持って米国大使館に向かう。しかし、事態は差し迫り、米国大使は大使館の門を閉じ、最後に残った米国人だけを乗せたリコプターが飛び立つ。大使館の門の前では、残されたベトナム人が嘆いていた。

 

ベトナム軍の将校を殺してしまったキムは船でベトナムを脱出、タイのバンコクに向かう。

 

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