「終身刑」

原題:Livstid

ドイツ語題:Lebenslänglich

2007

 

 

<はじめに>

 

作者、リザ・マークルンド(Liza Marklund)は、一九六二年生まれ、スウェーデンのジャーナリストであり作家である。彼女はコラムの執筆活動、ユニセフの大使などの多忙な仕事を抱えながら、八冊の「アニカ・ベングツソン」シリーズを発表している。主人公のアニカは、小さな息子と娘を抱えた大衆紙の新聞記者。作者と同じく、多忙な生活を送っているという設定になっている。

 

<ストーリー>

 

女性警官であるニーナ・ホフマンは、深夜パトロール中、銃声を聞いたという通報を受け、同僚と共にそのアパートに駆けつける。銃声の聞こえた部屋は、同僚の女性警官ユリア・リンドホルムとその夫ダヴィッドのものであった。ダヴィッドも警察官で、敏腕な警視として知られていた。鍵を壊してニーナが部屋に入ると、ダヴィッドは頭と下腹部を銃で撃たれて死亡しており、ユリアは浴室の床に茫然自失状態で座っていた。四歳になる息子のアレキサンダーは見当たらなかった。死亡したダヴィッドの横に銃が落ちており、それはユリアの職務上の拳銃であった。ユリアは、ニーナに、

「もうひとりの女がアレキサンダーを連れ去ったと。」

つぶやき、その直後に気を失う。

アニカ・ベングツソンは、深夜幼い子供達とタクシーに乗っていた。彼女の家が何者かに放火され丸焼けとなり、彼女は子供達を何とか脱出し、寝る場所を求めてストックホルムの街をさまよっていたのだ。アニカは友人のアンネのアパートを訪ね、泊めてくれるように頼むが、男を引っ張り込んでいたアンネはそれを断る。アニカは腹を立ててそこを立ち去る。家が焼け落ちた夜、アニカの夫のトーマスは家にいなかった。彼は、新しい愛人と一緒に夜を過ごしていたのだった。

殺されたダヴィッド・リンドホルムは、ストックホルム警察の名物警視であった。彼はこれまで何度も難しい事件を解決し、またテレビ番組にもしばしば出演し、一種の英雄として世間に受け入れられていた。犯行に使われた銃が妻のユリアのものであること、またその銃にはユリアの指紋しか残っていなかったことから、ユリアが容疑者として逮捕される。息子のアレキサンダーの行方は依然として分からない。

 警察は、ユリアを警官である夫を殺した容疑で逮捕する。幼い頃からの友人で、警察学校でも、現場でもユリアと一緒に過ごしたニーナは、ユリアが夫を殺したとは信じられない。捜査を担当する警視シューマンは、永年殺されたダヴィッドと一緒に働いてきたが、ダヴィッドが世間で噂されるほど、模範的な人格者でないことを知っていた。

 アニカは同僚のブリットの世話で、子供達を連れ、ちょうど空いていたブリットの知人の家に落ち着く。愛人の元から帰った夫のトーマスは、自分の家が無残に焼け焦げているのを見て衝撃を受ける。彼は、自分に愛人が出来たため、自暴自棄になった妻のアニカが、自分の家に放火したのではないかと疑い始める。

大衆紙の新聞記者としての仕事に戻ることになったアニカは、その手始めとして、ユリアによる夫殺しの事件を担当することになる。アニカは五年前「危険な職場で働く女性」というシリーズの取材で、夜ニーナとユリアと一緒に行動していたことがあった。そのとき、三人が殺され、そのうちひとりは手首を斧で切り落とされるという事件に遭遇していた。アニカはまずニーナと会って話を聞くことにする。ニーナは、ユリアが犯人であるとは思えないが、捜査班は彼女が犯人であることを前提に捜査を進めていることを伝える。アニカも、冷静なユリアが、犯人であるとはどうしても思えない。

 逮捕したユリアが一言も口を聞かないのにしびれを切らせた捜査班長の警視クーは、ユリアの幼馴染であるニーナに、ユリアを訪ねて話をしてくれるよう依頼する。ニーナは拘置所にユリアを訪れる。彼女は、「もうひとりの女」がダヴィッドを殺し、息子のアレキサンダーを連れ去ったとユリアに継げる。その女が誰かという問いを投げかけると、ユリアは錯乱状態になり面会は打ち切られる。

 アニカは殺されたダヴィッドの過去を調べていくうちに、彼が世間で信じられているのど、模範的な人物ではないという印象を持ち始める。ダヴィッドは過去に二度、容疑者を虐待した容疑で告発されていた。しかし、二度とも、被害者が何故か訴えを取り下げ、ダヴィッドが起訴されることはなかった。アニカはその被害者のひとりに連絡を取る。

 アニカはニーナと再び会う。ニーナはダヴィッドが嫉妬深い人間で、しばしば家庭内で暴力を振るい、ユリアはその結果うつ病で長期欠勤をしていたことを告げる。アニカは更に、ダヴィッドに暴力を振るわれたという人物に会う。かつて麻薬中毒者であった彼は、自分の他にも、ダヴィッドの暴力の犠牲者は何人にもいると述べる。アニカはダヴィッドの「別の顔」を記事にしようとするが、編集長のシューマンは裏づけが不十分であることを理由に採用しない。

 アニカは自分の家が全焼した件で、警察が自分を放火の疑いで捜査していることを知る。すでに愛人のいる夫のトーマスからは、これを機会に離婚を迫られる。

 ニーナはユリアの父、ホルガから電話を受ける。アレキサンダーのものと見られるパジャマと縫いぐるみが、ユリアの別荘の沼地から発見されたという。警察は、アレキサンダーが殺されたことをほぼ間違いないとみなし、ユリアを夫と息子を殺害した罪で起訴する。ユリアを拘留するための予備法廷で、弁護士はユリアの精神状態では犯罪の実証は難しいと述べる。しかし、ユリアはそのまま、起訴、拘留されることになる。

 数ヵ月後、ユリア終身刑が求刑される。裁判の途中ユリアは、

「夫を殺し、息子を連れ去ったのは『別の』の女。」

主張するが、精神鑑定の結果、「二重人格」というレッテルを貼られる。つまり、「別の女」とは、ユリアの中にいる別人と判断されたわけだ。

 アニカは殺されたダヴィッドの過去を洗う。確かに彼は、かつて、次々難事件を解決する警察署内の英雄であった。しかし、ここ十年ほどは目立った活躍をしていないことにアニカは気付く。また、ダヴィッドは、警察官としての職務の他に、副業で沢山の会社の経営に関わっていた。その中の共同経営者の中に、拳銃で撃たれて死亡した者もいる。その上、数年前、三人が殺され、ひとりの女性は手を切り落とされるという事件の犯人として終身刑で服役しているフィリップ・アンダーソンという男を、ダヴィッドが経理担当者として雇っていたことも分かる。

 ダヴィッドの過去に益々疑いを深めたアニカは、刑務所を訪れ、フィリップ・アンダーソンに面会することを決意する。アニカと会ったフィリップは、自分はダヴィッドの片腕として働いていたことを認めるが、これは冤罪であり、自分は無罪であると言う。アニカも、フィリップの有罪判決には、かなり無理があることを感じる。 

 アニカは、四年前の殺人事件と、今回の殺人事件に、多くの共通点があることを見て取る。そして、ふたつの殺人事件の犯人が同一人物ではないかと思い始める。

次にニーナを訪れたアニカは、ダヴィッド殺しの犯行に使われた銃は、ユリアのものであったが、それは一年以上前に彼等の自宅の金庫の中から盗まれていたことを知る。アニカは、犯人が、ダヴィッドの家に自由に出入りできる者、つまり、ダヴィッドが心を許した者であると推理する。また、その犯人は、何ヶ月、何年もの時間をかけてその犯行の準備をしていると考える。

 ニーナを訪ねた後、アニカは覆面をした男達に襲われる。

「ダヴィッドの事件から手を引け、そうしないと次は子供を襲う。」

と男のひとりはアニカ言い、彼女の手をナイフで切りつけて逃げ去る。

 判決の前日、アニカはユリアに面会を求める。ユリアは、夫のダヴィッドを殺し、息子のアレキサンダーを連れ去ったのは「別の女性」であるという主張を繰り返す。アニカはそれを信じる。アニカは、ダヴィッドが過去に一緒に働いた女性を洗って行く。そして、ダヴィッドが経営していた会社のいくつかに共同経営者として名を連ねる、ある女性に行き当たる・・・

 

<感想など>

 

 読み始めて、この物語の主人公は誰なのかと思った。「アニカ・ヴェングツソン」シリーズという名前を知らなければ、誰が主人公なのか、途中まで分からない。多分、誰もが最初は、女性警官のニーナ・ホフマンを主人公だと思ってしまうだろう。アニカが活躍を始めるのは、中盤から後半にかけてである。インターネットを駆使した調査を行う彼女は、「模範的な警察官」、「英雄」である、ダヴィッド・リンドホルムの行状に疑問を持ち始め、刑務所に服役する彼のかつての右腕を訪ね、更に、影で事件を操る人物に迫っていく。

タイトルを直訳すると「一生」「生涯」ということになるが、これは正しくない。「終身刑」という意味である。アニカの夫のトーマスは、政府の官房長官から「終身刑」の見直しのための調査を命じられる。また、四年前の三人の殺人事件の犯人として有罪となったフィリップ・アンダーセンは「終身刑」で服役中。夫と息子を殺した罪で有罪となった受けたユリア・リンドホルムも「終身刑」である。

女性の書いた小説だけあって、中心人物は皆女性、アニカ、ニーナ、ユリア。男は添え物として出てくる程度に過ぎない。いくら女性が書いた小説とは言え、ここまで登場人物を女性で固めると、ちょっと「えげつなさ」を覚える。「ここまでしなくても」と思ってしまう。

ヘニング・マンケルの「クルト・ヴァランダー」シリーズと流れを汲むスウェーデンのミステリーのお決まりとして、主人公は家庭的な悩みを抱えている。アニカは、家事で家を失い、小さな子供達と一緒に焼け出され、肝心の夫は愛人と家を出て、離婚を迫っている。おまけに自分は、放火の容疑を受けている。こうして散りばめられた、アニカを巡る悩みの数々によって、この小説は現実感を得ている。しかし、「私生活の悩みを抱えた主人公が事件を解決する」というのが、スウェーデンの推理小説の定番になってしまった感がある。

いよいよインターネットの時代に突入した頃の作品、主人公のアニカも、インターネットの「サーチエンジン」を駆使して、情報を得ていく。

「ビンゴ!」

アニカは自分の期待した結果が検索の結果現れるとそう叫ぶ。インターネットと携帯電話は、ミステリーの世界でも、避けて通れないアイテムになった。これらがないと、現実感が欠如してしまうというくらいに。

20126月)