ニューヨークを滅ぼすかも知れない島

 

突然道路を横切りだしたヤギの群れ。交通量が極めて少ないとは言え、ちょっと危ない。

 

 普段暮らしていると、雲は空を覆ったり空に浮かんでいて常に目に入るが、それほど身近には感じない。しかし、この島では雲との親近感が増す。朝起きると、目の前の崖の上の方を雲が覆っている。島の一番高い山へ登ると、空は晴れているが、眼下のカルデラから雲が沸き上がっている。結構高い位置ある道路を走っていると、突然雲の中に突入する。

北海岸を東に向かったときは、しばらく雲の中を進んだ。視界二十メートル。分かれ道で停まって道を確かめる。

「カランカラン」

鈴とも鐘ともつかない音が近づいて来る。雲の中から百匹以上のヤギの群れが道路を横切っていった。大人たちを一生懸命追いかけているおちびさんが可愛い。

 火山というのは、なかなかエキサイティングである。山が出来たり、島が出来たり、通常それには何万年もの時間がかる。しかし、火山活動は短期間でそれをやってしまう。僅か数か月、数週、数日で新しい島や山ができたりする。

 前にも書いたが、妻と僕は「火山の道」の一部を歩いた。そこでは一六七七年に噴火したサン・アントニオ火山と、一九七一年に噴火したテネグイア火山を見ることができる。ホテルから路線バスに乗り、十五分後にサン・アントニオ火山の入り口で降りる。そこから十分歩いたところが火口だった。直径が二百メートルほどのクレーターの中には、まだそれほど大きくないが、松の木が生えていた。黒い乾ききった火山灰の上に生える木の生命力には驚嘆する。火口の直ぐ近くにフェンカリエンテの町が見える。この火山が噴火しとき、町の人は生きた心地がしなかっただろう。至近距離に火柱が上がって、こんな山ができたのだから。山頂からは次の目的地、ネグイア火山が見える。

 サン・アントニオ火山から、黒い火山灰で覆われた斜面を降りて、テネグイア火山に向かう。ここは赤い溶岩で覆われている。ゴツゴツした岩山を上る。まだ噴火して間がないので(と言っても四十年以上経っているが)植物は全く生えていない。

「まるで火星に来たみたい。」

僕は妻に言った。火星探査のマースローバーが撮影して地球に送って来た、火星の表面の写真を思い出したのだ。やはりこのように赤い色をした岩で覆われていた。本当に超現実的な、超地球的な風景であった。

 日本の大震災では、津波で多くの人が亡くなった。これまで、津波はしばしば多くの人々の命を奪ってきた。当然、それを予知するための研究も進んでいる。そして、専門家が最も津波発生の危険の高い場所として挙げているのが、このラ・パルマ島であるとのことだ。ここ数百年の間に、島の南で何度も火山が噴火し、溶岩が西海岸に流れ落ちている。もし、この島の西側で大規模な噴火や、それに伴う地震が起こり、津波が発生したら・・・向こう岸はアメリカの東海岸なのだ。その際は、高さ何十メートルもの津波が、ニューヨークを襲う可能性があるという。小さいとはいえ、その意味では大変重要な島なのである。

 

赤茶けた溶岩で覆われたテネグイア火山、植物は全く生えていない。そこが火星的。

 

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