視聴者参加フラメンコ

 

スペインへ来たら、やっぱりフラメンコだけは見ないと納まりがつかない。

 

スペインと言えば、闘牛とフラメンコ。それと「主に平地に降る雨」。ラ・パルマ島では、さすがに闘牛にはお目にかからなかったが、フラメンコは見た。ホテルで夕食の後のシアターで日替わりのショーがあり、フラメンコ・ショーもあったのだ。

「あなた、フラメンコはやらへんの?」

踊りなら盆踊りからジャイブまで、何でもこなす妻に聞いた。

「一度試したんだけど、疲れるのよね。靴で床を力いっぱい叩かないといけないから。」

僕は末娘が小さいとき、一度彼女をダンススクールへ送って行った。僕が待っていたロビーの隣がスタジオで、三十人くらいの人がフラメンコのレッスンを受けていた。時々、三十人が固い靴の底で床を力いっぱい叩くのだ。

「バチーン!」

僕はその度に三十センチくらい跳び上がった。強烈な音と振動。

「あの人たち、何か人生に不満があり、それを叩きつけてはるんやろか。」

舞台でフラメンコが始まる。三人の女性と一人の男性が踊っている。メリハリのある、独特の手の動きが印象的。ショーも終わりに近づくと、ダンサーが舞台から降り、前の方に座っているお客さんを誘う。ステージの前には正方形のディスコ・スペースがあり、そこで一緒に踊りましょうというわけ。視聴者参加番組なのだ。妻も前に出て見様見真似で踊り始めた。これ、なかなか良い考えだと思う。ショータイムが終わるとディスコタイムが始まる。しかし、最初はなかなか皆さん恥ずかしがって真ん中に出て来ない。ショータイムの終わりにお客さんをある程度引っ張り出しておいて、ディスコタイムに移行すれば、最初から人はいるし、ウォーミングアップも出来ている。よく考えた構成だ。ディスコの最初の曲はいつも同じ。毎日聞いていると覚えてくる。

別の日に「フォルクローレの夕べ」があった。ラ・パルマの民族舞踊。男性と女性がだいたい半分ずつ、伝統的な衣装をつけて踊る。素朴でなかなか良かった。ここでもショーの最後に、ダンサーがお客に声を掛けて中央に連れてくる。二十代の女性が僕の方にやってきた。

「踊れないんやけど。」

「大丈夫、適当でいいんだから。」

彼女とは英語で話す。それで、彼女にリードされるままに踊りの真似事を始める。

「プロのダンサーなの?」

「普段はサン・アントニオで働いているの。」

「サン・アントニオ火山へは行く予定だから、見たら声を掛けるね。」

ダンスは進み、皆が輪になって、その輪が「8」の字になって、お互いの間をすり抜けていくという展開になった。間もなくショータイムが終わり、ディスコタイムへ。初めて踊った。 

翌々日、サン・アントニオ火山を訪れたとき、受付や資料館で、一緒に踊ってくれた若い女性を捜した。でも、見つからなかった。ちょっと残念・・・

 

素朴な感じがとても良かった民族舞踊。頭から布を垂らすというのがこちら風らしい。

 

<了>

 

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