クレーターの歌

 

ラ・パルマ島の衛星写真、上部中央に大きな凹み、テブリエンテ・カルデラが見える。

 

冬の寒さを逃れて北ヨーロッパの人々がやって来る土地、では具体的にどれだけ暖かいかと言うと・・・着いた日は夕方の六時だったが、気温は十八度。ロンドンは五度だったので、格段に暖かく感じる。一週間の滞在の間、ずっと雲の多い天気だったが、海岸沿いでの最高気温が二十度前後。暑くもなく寒くもなく、過ごしやすい気温だった。「海岸沿いで」と書いたのは、切り立った山のそびえる島、島の造りが実に立体的なのだ。例えば、ホテルの隣のちょっと大きな町、フェンカリエンテは屏風のような崖に刻まれたジグザクの道路を十五分ほど上がった標高六百メートルの場所にある。ある日、フェンカリエンテの街で、午後三時ごろの気温が十四度だった。坂道をドンドン降りてくるに従って気温が上がり、ホテルに着いたら十九度だった。ちなみに、二千四百メートルの島で一番高い山のてっぺんに着いたときは六度。潅木に氷の結晶がついていた。

ホテル「ラ・パルマ・プリンセス」にはプールが六つもある。恐ろしく掃除の行き届いたプールで、水面には葉っぱひとつ浮かんでいないし、底には石ころひとつ落ちていない。でも誰も泳いでいない。プールの横の掲示板には、水温十六度と書いてある。妻と一緒に泳いだけど・・・冷たかったわ〜。口に入る水の冷たさで、歯が痛くなったくらい。

カナリア諸島が火山活動によって出来たことは前にも述べた。僕たちが滞在したラ・パルマ島も火山島である。ラ・パルマ島の衛星写真を見ると、真ん中から少し北に辺りに、巨大な穴、クレーターが開いている。これがテブリエンテ・カルデラ。「カルデラ」とは、火山が噴火したあとにできた凹地のことで、スペイン語が起源とのこと。このテブリエンテ・カルデラ、直径が約十キロある。外輪山の一番高いところは先ほど書いたが二千四百メートル。雄大な地形で、カルデラ全体が国立公園になっている。有名な阿蘇カルデラは直径二十キロ以上あり、その中に町があり、鉄道や道路が通っている。しかし、ここラ・パルマでは、切り立った崖に囲まれた、ひたすら大きな鍋という感じ。鍋の底にはびっしりと松の木が生えていて、その淡い緑色が周囲の赤黒い岩山と対をなして美しい。まっすぐに伸びる松の木は、僕の故郷、京都の山で育てられている北山杉をほうふつとさせる。

また、島の南側には、近世に噴火した火山が縦に並んでいる。「ルート・オブ・ヴォルケーノ」、「火山の道」というトレッキングのルートがあり、そこでは色々な火山活動の跡を見ることができる。ちなみにホテルから見えるサン・アントニア火山は一六七七年に噴火、ホテルと岬の間にあるテネグイア火山は一九七一年に噴火したとのこと。妻と僕も「火山の道」一部を歩いたが、沢山の火山のクレーターを見ることができる。

「クレーターの歌知っている?」

と歩きながら妻に尋ねる。

「知らない、そんなのあるの?」

「母さんが 夜なべをして 手袋編んでクレーター。」

妻の冷たい眼差し・・・

 

「火山の道」の途中、一番最近噴火したテネグイア火山の山頂で。

 

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