水戸黄門の印籠

 

山海の珍味とはいかないが、それなりに美味しいもの並んだバイキング形式の夕食。

 

今回泊まったリゾートホテルは「オール・インクルシヴ」だった。ヨーロッパで滞在型のリゾートホテルを予約すると、いくつかの条件がある。

@   セルフ・ケータリング(食事なし)

A   ベッド・アンド・ブレックファスト(朝食付き)

B   ハーフボード(朝食、夕食付き)

C   フルボード(朝食、昼食、夕食付き)

D   オール・インクルシヴ(三食とアルコール付き)

つまり、「オール・インクルシヴ」だと、滞在中に飲むアルコールも全て料金に含まれるという「呑兵衛」には結構な制度。更に言うと「飲まないと損」ということになる。レストランに行くと、蛇口をひねればワインやビールはそれこそ「湯水の如く」出てくる。

しかし、ホテルには基本的に誰でも出入りできるわけで、バーで無料の飲み物を受け取ろうとしている人が、本当にホテルの泊り客なのか、チェックしなければいけない。それで、ホテルにチェックインすると、宿泊客の手首に、条件に従って別の色のブレスレットをしてくれる。「オール・インクルシヴ」のブレスレットは銀色だった。これを滞在中ずっと付けている。水戸黄門様の印籠と同じ。レストランへ行っても、バーへ行ってもそれを見せるだけ。

「この紋所が目に入らぬか」

「ははあ。」

 桂雀三郎の「ヨーデル食べ放題」でも「ビールは別料金」なのに、ホテルでは追加料金を払わないで、酒を好きなだけガンガン飲めるのである。僕のように「酒を嗜まない人」には分からないが(冗談)、休暇中の飲酒を必要以上に促進する制度だと思う。そもそも酒飲みが酒を飲む量をコントロールできる理由は「自制心」ではなく「金」、「コスト意識」だと思う。そのコスト意識を取り去ってしまうこの制度、良いのか悪いのか。

ラ・パルマ島はいわば「絶海の孤島」である。周りには、海以外に何もない。こんな場所では、星が良く見える。都市の近くでは、どうしても空が明るくなる。だから、周りに明かりがない高い山の上や孤島は、星を見るには絶好の場所なのだ。大学生の頃、日本でよく三千メートル級の山に登ったが、山頂から満点の星空を見るのが、山に登ることのひとつの大きな魅力だった。白馬岳の上から見た星空はいまだに忘れられない。

標高二千四百メートルのラ・パルマ島の最高峰ロック・デ・ロス・ムチャチョスには、天文台、望遠鏡がずらりと並んでいる。しかし、そんな専門的な観察施設でなくても、島で見る星空は最高。今は冬の星座なので、オリオン座が良く見えるのだが、横に並ぶ三つの星はもちろん、その下に縦に並ぶ三つの星も良く見える。真ん中の星は「馬の首大星雲」と呼ばれる別の銀河なのだが、それもはっきりと見える。オリオン座の下にはシリウスが輝いている。

 

島の最高峰の周囲にずらりと並ぶ望遠鏡。

 

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