花見だ花見

 

着いた翌日の鴨川堤防。まだまだ満開。沢山の人がそれぞれに桜を楽しんでいた。

 

「間に合うかなあ。」

出発前に、僕は心配していた。今年は京都の桜の開花が例年より早かった。僕がロンドンを出発したのが三月二十九日の水曜日。僕のこれまでの印象から言うと、三月三十日から四月十一日までの京都滞在は、桜の見頃にバッチリ適合していると思っていた。しかし、地球の温暖化か、最近は開花が早く、僕の出発する前の週末に京都では「満開」という便りが入っていた。

「花の命は短い。ちょっと無理かなあ。でも、せっかくだから花見はしたいよなあ。」

と、祈るような気持ちで、飛行機に乗ったのであった。

 結果は「セーフ」。満開になってから、風も吹かず、雨も降らず、気温の低い日が続いたとのことで、僕が京都に着いた日、ソメイヨシノはまだまだ「満開」状態を維持していた。関空から電車で京都に向かったが、車窓に、満開の桜が現れては消える。正直ホッとした。着いた翌朝、鴨川の畔を散歩したが、両岸の桜は本当にきれいだった。

二、三日して、そろそろソメイヨシノが散り始めたとき、しだれ桜が満開になってきた。火曜日の午後、友人のGくんと一緒に、植物園の横の「なからぎの道」へ、しだれ桜を見に行く。鴨川の東岸に、ずらりとしだれ桜が植えられている場所。天気の良い日の午後。何組もの結婚したてのカップルが、桜をバックに写真を撮っている。ウェディングドレスを着たまま、ぴょんぴょん石をつたって川の真ん中まで行く、勇敢な花嫁さんもいる。いつも書いているが、Gくんとは彼の勤務先のソロモン諸島、ヨルダン、ポーランド、ルワンダなど、地球のあるとあらゆるところで会っていた。最近は、京都に出会うことに落ち着いている。しかし、色々と外国の話題を話せるのが楽しい。

 翌日、また同じ場所に行った。今度は別の人と。ロンドンの学校で一緒に働いている同僚、N先生である。数週間前、授業が終わった後、学校を出て、ベーカーストリート駅まで歩いていた。言わずと知れた、シャーロック・ホームズさんのお住まいだった場所である。そのとき、N先生と一緒になった。

「お国はどちらですか?」

と尋ねると、京都とのこと。更に詳しく尋ねると、お母さまがお住まいの場所は、僕の実家のすぐ近くだった。最近、海外で日本人の方に会って、出身地を訪ねると、東京、千葉、神奈川、埼玉などという人がやたら多い。まあ、この四県で日本の人口の三分の一を占めているので、確率的に言って、当然なのだが。たまに、京都とか、長崎とか、石川とか、そんなマイノリティーな場所から来られた方に会うと、何だか嬉しくなってしまう。N先生もちょうど復活祭休みに京都へ帰られるとのこと。嬉しくなった勢いで、京都で会う約束をした。思いがけない人と、思いがけない場所でお会いし、一緒に桜を見ながら散歩をすることができた。

 

植物園の横の「なからぎの道」。地元では知る人ぞ知る名所。

 

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