暑い夏の楽しみは?

 

 

幻想的な世界が繰り広げられる宵山。お囃子もいい感じ。

 

 

「なんて幻想的な景色や。」

僕は、提灯に彩られた鉾を見てつぶやいた。鉾から聞こえてくる、「コンコンチキチン」の笛と太鼓、鳴り物の音も郷愁を誘う。祇園祭の「宵々山」。前回祇園祭を見たのは、一九九七年。二十五年前。日本出張の際、東京から大阪への移動日があり、その日がたまたま祇園祭の巡行の日だった。最後に夜の祭り見たのは更に昔。もう四十年以上前だと思う。この祇園祭、過去二年間はコロナでメインイベントがほぼ中止になり、三年ぶりの開催だという。

 これまでも、ほぼ毎年、日本に一時帰国していた。しかし、夏には戻らなかった。京都の夏がメチャ暑いのを知っていたから。それに、学校の夏休み期間は、航空運賃が普段の倍くらいする。

「日本に帰るの、できれば夏は避けたいよな。」

ずっとそう思っていた。ところが、昨年九月から、学校で働き出したことで、事情が変わった。学校の夏休み以外に長い休暇が取れなくなったのだ。それで、今年の日本行きは、学期の最後の授業が終わった後にすることに。最後の授業は七月九日。四日後の七月十三日に英国を発つことになった。その日にしたのは、意味がある。七月十四日に京都に着けば、十七日の山鉾巡行やその前の祇園祭のメインイベントを見ることができと思ったからだ。

ニュースは、六月の下旬から、日本が四十度近い猛暑に見舞われていることを伝えていた。

「やっぱり暑いんか。嫌やなあ。」

と思いながらも、久々に祇園祭を見る機会に恵まれたことで、喜ばなければ、とも思った。僕は、日本に着いた日から一週間、京都の烏丸御池にウィークリーマンションを借りていた。コロナ蔓延の折、いきなり母親の家に転がり込むのも気が引けるので、少し「自主隔離」ということでバッファーを置く方がいいと思ったから。ただ、場所を烏丸御池に選んだのには、理由があった。そこが、祇園祭の山鉾巡行のコースだったからだ。

「祇園祭を見るのに便利そうやし。」

そう思いながら場所を選んだ。

 七月十三日の朝、ヒースロー空港を出発。飛行機の離陸が一時間半遅れた。パリでの乗り継ぎ時間が二時間しかない。気をもんだが、何とか滑り込みセーフ。パリからの飛行機は、これまでのようにロシア上空を飛ばす、南に向かう。カザフスタンやインド、中国、モンゴルの上空を飛び、十四時間掛かって関空に着いた。僕は、昨年も、コロナの禍中に帰国していた。その時に比べると、今回は拍子抜けするくらい、あっさりと入国できた。昨年は、三日間のホテル隔離、その後十一日間の自宅隔離があった。その間、公共交通機関も使えないので、レンタカーで関空から京都へ移動。今回は、予め携帯にインストールしたアプリに、ワクチン接種証明書と、出発の前々日にしたPCR検査の陰性証明書がアップロード。それを見せて、ちょっとした問診に答えてそれでオーケー。十分も掛からなかった。

 

  

 

昼間はまだ観光客が少ないが、夜になるとラッシュアワー並みの人出になる。

 

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