攻める気を失くす城

 

城から見下ろす備中高梁の街。コンパクトで、住み易そう。

 

「あそこにお城が見えます。」

運転手が街の外れに聳える、結構高い山を指差して言った。よく見ると、傾斜の急な山の頂上に、屋根のようなものが見える。それが、備中松山城の天守閣だった。十一時十五分発の「乗合タクシー」の乗り場に集まったのは僕ひとり。

「どこが『乗り合い』やねん。」

普通のタクシーと変わらない。

「あんな高い所にあると、お城に食料や弾薬を運び上げるのも大変だったでしょうね。」

と僕が言うと、運転手氏は、

「と言うことは、敵も攻める気を失くすと言うことですよ。」

なるほどね。あの城を攻め落とすのは、大変そう。

天守閣の標高が四百メートルを超える備中松山城へのアプローチだが、まず「五合目」までは車で行ける。そこに駐車場があって一般車はそこまで。駐車場から、「七合目」までの狭い道は、タクシーはオーケー、また、「シャトルバス」が通っている。「七合目」から頂上までは、歩くしかない。これが結構急な坂。足元も悪く、「七合目」で竹の杖を借りて、それを突きながら、汗をかきながら、上り坂を二十五分から三十分歩く。僕は五日後に、比良山に登ることになっているので、ちょうど良い足慣らしかも。ようやく天守閣に到着。観光客にとっても、備中松山城を攻め落とすのは、簡単ではない。

しかし、頂上の天守閣に着いたら、その苦労は報われる。小ぶりながら均整の取れた天守閣の建物は美しい。そして、そこから眺める備中高梁の街の景色はまさに絶景。大手門のところに、「ご自由にお飲みください」というお茶が置いてある。茶色いほうじ茶。坂道を登った後に飲む、冷たいお茶は美味しい。平日の午前中とあって、城を訪れる人は少ない。天守閣の建物に入ったとき、靴を脱ぐ場所に一足も靴がない。つまり訪問者は僕ひとりだった。

観光案内所のお姉さんは慣れているので、城の観光にどれくらい時間が掛かるのかお見通し。一時半に迎えのタクシーをアレンジしてくれていた。七合目に降りて間もなく、タクシーがやって来る。「乗合タクシー」の客はまた僕ひとり。乗り合いなので、個人で頼むと千五百円するところを、五百円にしてもらっている。独りで乗るのが悪いような気がする。

「水害は大丈夫だったんですか?」

運転手氏に尋ねる。今年の岡山県は、大雨と洪水による大きな被害が出たことを聞いていたからだ。

「国道に停まっていたトラックが何台も流されました。」

と運転手氏が言った。街には高梁川が流れているが、ちょうどV字型の谷になっていて、増水したら、街が水浸しになってしまうという。

「色々対策も講じられていたみたいですけど、あの大雨の前には無力でした。」

と彼は言った。僕は、駅には戻らず、途中の武家屋敷界隈で降ろしてもらうことにした。

 

日本の城には、平城、平山城、山城の区分があるが、備中松山城は、典型的な山城。そして、唯一天守閣が残る。

 

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