四十年で人はどのように変わるか

 

城下町の趣がそのまま残る金沢、長町武家屋敷界隈。

 

閑話休題。九月二十八日、会社での最後の日、「お別れカード」、つまり寄せ書きを同僚から貰ったことは既に書いた。ロンドン以外の場所で働いていた、寄せ書きに参加できなかった人からは「お別れメール」を貰った。それを読んで、

「モトの笑顔は素敵だった。」

「朝、モトに会うと、いつも笑顔で挨拶されるので癒された。」

そんなコメントを見つけたときは嬉しかった。仕事が全て上手く行っていれば、会社を辞める必要はないわけで、辞めるに至る事情はそれなりあった。最後の半年くらい、車を会社の駐車場に停めて、玄関まで歩くとき、何時も、暗くて沈んだ気持ちになった。

「せめて、同僚たちだけには、笑顔で接しないと・・・」

そう思い、無理矢理笑顔を作り、その後は、

「あなたに、今朝も会えて、とっても嬉しい。」

そんな顔で挨拶をするようにした。それが、結果的に、同僚に好印象を与えていたようだ。しかし、不思議なことに、そうするうちに、自分の気持ちを、だんだんと晴れてくるのである。やはり、笑顔は他人にとっても、そして、自分にとっても大切なものなのだ。妻は、

「その笑顔がどうして家でも出来ないのよ。」

とご不満のようだが。

今回、金沢を訪れるに当たり、楽しみにしていたことがある。それは大学院の先輩のTさんにお会いし、一緒に食事をすることだった。Tさんは、僕が卒業するころには、地元の大学の講師をやっておられた。(その後教授になられ、既に退官されたが。)当時「文学部山の会」というのがあり、僕たちは、よく北アルプスなどに登っていた。Tさんはそのパーティーのリーダーだった。文字通り同じ釜の飯を食った仲。Tさんとは大学院を出て以来お会いしていない。だから、今回は三十五年以上ぶりの再会。僕の友人の奥さんであるK子さんが、たまたまTさんと同じサークルで活動をされており、彼女のオーガナイズで、日曜日の夜にK子さんご夫妻、Tさん、僕と四人で食事をすることになった。場所は、香林坊の裏、Tさん行きつけの居酒屋である、

 K子さんの旦那さんと僕が一緒に店に入ると、K子さんとTさんが既におられた。一瞬、自分の頭の中にある三十五年前のイメージと、今対面する人物のイメージを重ね合わそうとする。ピッタリと来ない。お顔には皺が増えているし、お頭は薄くなっているし。

「川合君、どうして君は全然変わんないの?」

Tさん。その変わらない声、話し方、話題の展開を聞いて、そこでしっくりきた。本当に昔のまま。

「君は、昔、新聞によく投稿していたね。」

Tさんが、そんな、僕の昔の話をされるのだが、自分でも思い出せない。

「自分に関することでも、自分にとって印象に残っていること、他人から見て印象に残っているのは違うんだ。」

と思った。お店の食べ物も美味しかった。特にタラの白子が最高。何より、皆さんとの会話が楽しく、懐かしく、心に残る夜だった。

 

変わってないと言われるのは正直嬉しい。でも、成長してないってことかも。

 

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