弥勒菩薩とポッキー

 

国宝第一号弥勒菩薩像。広隆寺は帰化人秦氏の寺であるという。

 

弥勒菩薩はお優しい顔だった。阿修羅像の展覧会に記録的な人が訪れたというが、良いお顔ということでは良い勝負だと思う。それに雨に濡れた広隆寺の境内もなかなかのもの。

広隆寺から出た後、僕は予定を完全に変更した。まだ早いので、四条まで出て、明日に予定していたショッピングをやってしまおうと思ったのだ。太秦から四条大宮まで嵐電に乗り、そこから雨の中、四条通を歩く。レコード店で落語のCDを買い、寺町まで地下道を歩き、寺町の「タニヤマムセン」でUSBメモリーを買う。ロンドンから持ってきたメモリーは差込みと本体がグラグラになっていたから。

 電気屋の横に、なにやら怪しげな本屋がある。アダルト本、アダルトDVD専用の店らしい。「思わず」中に入ってみると、放送が。

「間もなく何とかちゃん(おっぱいの大きなお姉ちゃんらしい、AV女優なのかも)のスペシャルイベントがあります。イベントにご参加いただき彼女の写真集をご購入いただいたお客様は、何とかちゃんと一緒にポッキーを食べていただけます。」

「ポッキー???」

想像するに、おそらく一本のポッキーを両側からお客さんと何とかちゃんと食べるわけだろう。ポッキーはだんだん短くなり最後は・・・僕はそのアイデアに笑ってしまった。写真集は荷物になりそうだったので、僕は何とかちゃんとポッキーを食べるのをあきらめて外へ出た。

 新京極を通って京都市役所前まで歩く。雨の日曜日ということで人出が多い。普段慣れていないせいか、日本人ばかりに囲まれているとすごく違和感がある。特に英国では余り見ることのできない日本の若いお姉ちゃんを見ると、思わずキョロキョロしてしまう。昨日カサネが着ていたが、短いズボンに厚いタイツにブーツというのが最近の「流行り」らしい。道を行く若い娘たちは皆そんな格好をしている。本当に、日本の女の子は流行ると皆同じ服を着るので面白い。

 本能寺の前で地下に降り、地下鉄を乗り継いで鞍馬口の生母の家に戻る。今日もよく歩いた。少し疲れたが、まだもうひとつ寄らねばならないところがある。トモコの家だ。彼女は小中高の同級生で時々父の見舞いに来てくれている。昨年の一時帰国の際、僕は彼女のエレクトーンのコンサートを聴きに行った。

自転車で三分のトモコに家に行き、十分ほど、トモコと娘のユカと話す。昨年のコンサートの後で、彼女の弾いた曲が素晴らしいと言ったらしく、(僕は忘れていたのだが)トモコはその楽譜をもう一部買っておいてくれていた。ピアノで弾いてねということらしい。日本の曲の楽譜、なかなか気の利いたお土産だ。

 その夜船岡温泉では、テキサスから来た空手の先生と、空手における精神修養の重要さについて話をする。日本にいるのも明日一日だけ。明後日の早朝には京都を発って、関西空港から飛び立たなくてはならない。

 

広隆寺の庭。梅が咲き始めていた。

 

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