再びドイツへ

 

月曜日の朝の五時、眠い目をこすりながら、ヒースロー空港の十七番ゲートに向かう。

 

 一月に続き、二月もドイツで働くことになった。暮れにドイツの同僚のひとり、クリスティアンが亡くなった。その後孤軍奮闘しているカロラの手伝いと、クリスティアンの代わりに二月から入社したユルゲンの教育が出張の目的だ。出張依頼が来た時、

「どれくらいの期間、そっちへ行ったらいいの。」

とドイツ社のマネージャーで友人のデートレフに聞いた。

「できれば二週間続けて働いてくれる?」

とのこと。ちょっと長いかなと思ったが、その方が腰を落ち着けて仕事ができる。依存はない。「偉いさん」の承認も取れた。それで今回のドイツ出張は十一泊十二日の長丁場となった。

僕は、二週間の間、ピアノの練習を怠らないために、キーボードを持っていくことにした。娘のミドリが一台持っているので、彼女のを借りても良いか聞いてみる。ミドリは快くオーケーしてくれたが、外箱がないのに気付く。キーボードをどのようにして飛行機に乗せようかと思いながら、昼休み会社の近くの商店街を歩いていると、中古屋に一台四十ポンドでカシオのキーボードを売っていた。外箱も付いている。それを買った。

二月七日、月曜日の朝五時。ヒースロー空港で、そのキーボードと一緒にチェックインをする。長さが一メートル以上あるキーボードの箱が大きすぎて、ベルトコンベアに乗らないとのこと、「大型荷物預け所」まで持って行かされる。

搭乗口に向かって歩いていると、横から、

「グッド・モーニング・ミスター・モト。」

という声。立ち止まってそちらを見ると、ロンドンのオフィスで同僚のアカッシュが座っていた。そう言えば、彼は今日からシステムの切り替えのために、ポルトガルのポルト支店に出張すると言っていた。しかし、月曜日の朝、混み合う空港の中で僕を見つけるとは、なかなか目敏い奴。

「おはよう、アカッシュ。」

「モトはこれから何処へ行くの。」

「ドイツへ二週間。」

「ええっ、二週間も行くの、そりゃ長い。身体に気をつけることだね。」

「有難う、グッド・ラック。」

「グッド・ラック。」

そう言って彼と別れる。そうそう、彼が言うように、長丁場、余り根を詰めて無理をしないように、適当に休養を取りながらやろうと思う。それと、風邪を引かないように。

一月の出張と同じように、午前六時半発、デュッセルドルフ行きのルフトハンザ機に乗る。九時にデュッセルドルフ空港に着くと、いつものようにデートレフが迎えに来てくれていた。彼の運転で、メンヒェングラードバッハにあるドイツ社へと向かう。

 

デュッセルドルフ空港にあったちょっとドキッとさせられるレンタカーの宣伝。