朝の日課

 

会社に到着。仕事をするにはもったいない天気。

 

デートレフの運転で、メンヒェングラードバッハにあるオフィスへ向かう。二月のドイツとしては珍しく暖かく、太陽がサンサンと照っている。日差しが眩しく、サングラスが欲しいくらい。

「モトが良い天気を持って来たのかな?英国からじゃ、それもないよな。」

と運転しながらデートレフが言った。彼を含め、ドイツ人の大半は、英国では年がら年中曇り空で、雨が降っていると思い込んでいるのだ。そして、それは当たっている。日本海側に住んでいた僕と妻には、それが気にならないだけなのかも。

会社に着く。デートレフとカロラと打ち合わせをして、まず一週間の予定を立て、それから仕事を始める。クリスティアンが亡くなってから仕事が溜まり、その期日が迫ってきているので、結構忙しくなりそうだ。

その日は六時過ぎまで仕事をして、その後、車でホテルに向かう。今回も、デートレフが通勤のための車を会社から借りてくれている。今回の車は黒いフォルクスヴァーゲン・ゴルフ。

ホテルはいつものように、森に囲まれた「エリーゼンホフ」。僕がいつもここに泊まるので、カロラはこのホテルを「モトの第二の家」と呼んでいる。一応「四つ星」、大きくはないが、清潔なホテルだ。何より会社まで十分で行けるので便利。今回はここに何と十一泊することになっている。

チェックインするとき、フロント係りのお姉さんが、ぼくの持ち込んだ大きな箱に興味を示す。

「これ、キーボードです。コンピューターでなく音楽の。」

職業欄に冗談で「ピアニスト」と書こうかと思ったがやめておいた。

 ホテルに着いて、部屋の中でビールを飲みながら少しキーボードで練習をしてみる。ピアノと感触が違うが、新しい曲の指使いを覚えるには十分だ。最近妻との連弾をしているが、次はブラームスの「ワルツ十五番」をレパートリーにすることになっている。それを重点的に練習する。

その日は朝四時起きだったので、さすがに眠い。八時過ぎにホテルのレストランで夕食を取った後、九時過ぎには眠ってしまった。

火曜日、六時に起きて、辺りの森の中を三十分ほど散歩する。昨日の天気は良かったのだが、このところ雨が多かったらしく、道には水溜りが多い。夜明け前で真っ暗な中を歩いているので、何度か水溜りに足を踏み入れ「冷たい思い」をする。空を見上げると、まだ満天の星。「グッド・モーニング・スター・シャイン」という歌があったのを思い出した。

部屋に戻って「補強運動」をする。腕立て伏せ二十五回、スクワット、腹筋、背筋をそれぞれ五十回ずつ。そしてシャワーを浴びる。散歩、補強運動、シャワーが僕のドイツ滞在中の出勤前の日課となった。これも、通勤時間がわずか十分だからできることだ。

 

十二日間暮らしたホテルの部屋。補強運動をしたり、キーボードを弾いていた。

 

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