墓参り
富山の「鱒の寿司」、魚の身が厚く、鮮やかな朱色。
Rさんに改札口まで送ってもらい、僕は九時半の新幹線に乗った。新幹線とタクシーを乗り継ぐと、十時十五分にはもう妻の実家に着いていた。四十五分で家に到着。昔なら最低二時間は掛っていただろう。
「新幹線恐るべし。」
Rさんの嬉しそうな顔が頭に残り、いい日になったと思った。
翌日、義母との朝食の後、僕は娘の墓参りに出かけた。娘は妻の実家の墓に納骨されている。墓は金沢市郊外の野田山墓地、山の中腹にある。妻の実家から歩いて約三十分、途中からは急な登りになる。
「昔、陸上部で『坂登り練習』があって、この坂道を何本も走ったもんや。」
その日も、ネットリとまとわりつくように湿気を含んだ暑さ。僕は水の入ったペットボトルを片手に、山道を登って行った。
西日本では八月の旧盆を祝う場所が多いが、金沢は例外的に七月の新盆である。今日は土曜日、道の両側には結構沢山の車が停まっていて、お盆を前に、墓掃除をしている人が多い。かなり汗を掻いて墓まで辿り着き、僕も墓石の周辺の雑草をむしる。「自分の子供の墓に参る」、これだけは考えたくなかった、そして、今後も現実として受け止めたくない行為である。
汗だくで墓から戻り、義母と一緒に近くのスーパーに買い物に行く。冷房が気持ちいい。ちょっと寒いくらい。
「お母さん、何食べたい?」
義母の食べたいものは、何と「スパゲティー」。ミートソースを作る材料を買い、家に戻ってから仕込みをする。食べるのは月曜日になるが、二晩くらい寝かせるとソースはもっと美味しくなるだろう。春に息子が来て置いていった高級赤ワインを惜しげもなく入れる。
その日の夕方には、いつも僕がオンラインでドイツ語を習っている、金沢大学名誉教授のK先生と、オンライン講座の「同級生」との夕食会が予定されていた。しかし、その前に、五時から六時まで、僕は自分が教えるオンライン授業をひとつ済まさなければならなかった。今年度は、ロンドンの語学学校で、試験科の担任をしていた。試験科の先生の仕事は、六月に行われる、全英統一テストにおいて、日本語で試験を受ける生徒さんを指導すること。そのテストが終わり、生徒は夏休み、先生もお役御免。それで、日本に来たわけだが、時々プライベートの生徒さんへの授業とか、学校の夏期講座とかがあり、時々、オンラインで仕事をしなければならないのだ。時差があるので、授業は英国の午前中、日本の夕方に組まれていた。
六時にオンライン授業を終え、頼んでおいたタクシーで、金沢駅前の寿司割烹の店に向かう。夕方になって、かなり過ごしやすい気温になっていた。金沢は京都と違い、夜になると涼しくなるのがいい。
新幹線が開通してから、飛躍的に乗降客が増えた金沢駅。今や、外国人に大人気の町。